タグ別アーカイブ: 富士フイルム

581.富士フイルムHDの米ゼロックスの買収破談は、両社に良い結果

ざっと富士ゼロックスをめぐる、両社の経緯をおさらいしますと、①富士ゼロックス創業(1962)富士フイルム50%:英ゼロックス50%の持ち分 ②2001年米ゼロックスのは1980年~1990年代の経営不振により、富士ゼロックス株式25%を富士フイルムへの売却、富士ゼロックスは富士フイルムの子会社に、富士フイルム:米ゼロックス75:25 ③但しその後も富士ゼロックス出身の経営者によるガバナンス継続、富士フイルムの銀塩感材消失に売上、利益を補完する ④富士ゼロックスNZ経営陣の不祥事(2017年)により、富士フイルムHDが富士ゼロックスのガバナンスを取る ⑤2018年1月、富士フイルムHD、米ゼロックスの買収発表、7月までにクロージング富士ゼロックスは、米ゼロックスの100%子会社になる、富士ゼロックスの1万人リストラ発表 ⑥モノ言う、米ゼロックスの株主、買収契約無効を米裁判所に提訴、一審は株主勝訴二審は富士フイルムHD勝訴、米ゼロックスは株主に1株40$の配当を富士フイルムに要求、富士フイルム拒否 ⑦2019年12月 買収破談と富士フイルムHDは、米ゼロックスから富士ゼロックスの残り株25%を買収、100%子会社とする。

2018年1月の買収発表の時は、ペーパーレス時代を迎えている複写機事業にとって、米ゼロックス・富士ゼロックス統合による経営効率化と新規事業の創出は、論理的には正解です。それしかなかったと思います。しかし、米国有数の老舗伝統企業がアジアの国の軍門に下るのは、ビジネス論理以上に心理的抵抗が強かったと思います。会社は株主のものが明白なアメリカでは、金さえ入ればいいという考えが、経営者も株主にもありますから、先の米ゼロックス経営者は、事業が低迷するなかで、富士フイルムに買収される選択をして、自分たちも高価な報酬を得て経営から退き、それなりの配当を株主すればよいとの選択をしたのだと思います。表向きには米ゼロックスの買収案での評価が不当に低いということで株主は買収異議を唱えたのですが、日本の会社の下に入るのは嫌だ、白人は黄色人種より階層が上という意識を感じます。

結果として、富士フイルムは完全に富士ゼロックスを自分の支配下に置き、富士フイルムとのシナジーを完全にフリーハンドで行うことができます。欧米の企業にお伺いをたててからでないと意思決定できない仕組みは時間ばかりかかってワークしません。富士ゼロックスは富士フイルムに比べたら優しい会社ですから、富士フイルム流の厳しい管理をしていけば、リストラは容易にできました。そこでの構造改革は終了しています。米ゼロックスとの販売テリトリーの棲み分けも排除されますから、世界中自由に売れるようになります。かなり良いディールだったと思います。

一方の米ゼロックスは、富士ゼロックス株売却の2500億円が手元に入りましたから、このお金で経営者と株主は一時的ですが潤うでしょう。欧米の会社は長期的視点に欠けるところもありますから、それでいいのです。先日米ゼロックスが仕掛けた、3兆3千億円でのHPの買収案は、常識的には荒唐無稽です。今や格はHPのほうが上ですから、提案は一蹴されましたが、HP経営陣より、統合案には興味がある、HPが米ゼロックス買収の検討を始めたようです。その時は米ゼロックス経営者の協力が必要と言っています。これは、HPが米ゼロックスを買収時は、米ゼロックスの経営者は降りてください、お金払いますからというように聞こえてきます。どうも最初から両社の出来レースのようにも思ってしまいます。日本の会社に買収されるより、米国の会社のほうがいいと思っているのでしょう。

私は30年前に、米国Dupontと富士フイルムで英国の会社を買収して共同経営した経緯に関わってきました。プライドの高さは、英>米>日でした。英国の会社は、買収されたのにパートナーが変わっただけと居直って全く指示を聞きません。幹部に文句を言うと高額の退職金をもってすぐにやめていきます。実はそこが最初から彼らの狙いだったのです。欧米人の価値観、文化、会社への意識は日本人とかなり違います。そこがベースで議論が始まりますから、結論が合うわけがありません。結局Dupontも経営から降りて、富士単独で英国の会社の経営を行いましたが、うまくいかず10年ほどでその会社はMBOしました。その会社は現地人だけでそれなりにうまくやっています。欧米企業との連携、M&Aはもはや避けて通れないものですが、その根っこが違うことは十分に認識しないとだめです。日本人の性善説、話せばわかるは足元を見られるだけです。

それでは、チュース!!

428.富士フイルム、米ゼロックス買収のせめぎ合い

昨日午後、富士フイルムHDの古森会長は産経新聞社などとの共同インタビューで、「米ゼロックス買収は、締結した買収契約が履行されなければ損害賠償も辞さない。米ゼロックスからの1株あたり40ドル引上げでの買収提案はNoと明言。引き続き交渉は続けるが、まだ新提案はない。ソロバンが合わずにこの膠着状態が数か月から半年続けば撤退もありうる。」と述べました。実に明快に、ロジカルな交渉について期限を設けて述べました。戦い上手です。相手の脅しにビビりません。ダメならNoと宣言しました。こういう交渉過程までオープンにするのはややもすると閉鎖的に見られる日本企業としては珍しいことで、富士フイルムHDの株主、社員、関係者にとても良いことです。

今回の買収が頓挫しているのは、米ゼロックスの、モノ言う株主主導による買収契約破棄でその目的は、いかに株主の取り分を増やすかです。もし本当に富士フイルムが買収撤退するとなると一番困るのは、米ゼロックスのモノ言う株主でしょう。買収先としてファンドに声をかけていますが、ファンドが買ってもそのファンドはまた、富士フイルムに売りにくるでしょう。同じことです。これから、双方で激しい交渉が続くでしょう。古森会長が場合によっては引くという選択枝を表明したのは相手にとっては脅威です。そして古森会長の表情からは冷静に引くこともあるぞという決意を感じました。

私は本件について、391、393、417、422号で書いてきましたが、この買収は戦略的な判断は正しく、その手法も富士フイルムにとっては効率的、効果的ですし、暗礁に乗り上げてからも、会長、社長とも冷静に状況判断して的確な対応をしてきました。買収撤退案は私も頓挫の最初からありだと思っていました。ですから、撤退して元に戻ってマネジメントを続ければ良いだけの話です。

しかしひとつだけ撤退すると富士フイルムに困ったことが起きます。それは今回の買収によって、1万人のリストラが発表され、その作業が進んでいる富士ゼロックス社員のモチベーションです。知人のゼロックス幹部社員からの話では、今回の買収は大きな戦略論では正しいと優秀な富士ゼロックスの社員は思っているようです。しかし社員のモチベーションの低下は避けられず、優秀な社員から辞める人がいるようです。まあこれはM&Aとリストラの過程では当然起こることで想定内なのですが、半年後に買収撤退が正式に決まると、その時の富士ゼロックスは昔のそれとは違っています。そんなことは優秀な富士フイルムマネジメントはわかっていますし、米ゼロックス経営陣もそれは承知の上で、富士ゼロックスから情報をとっているでしょう。だから簡単に富士フイルムも撤退はできないと米ゼロックスも踏んでいます。双方の難しい交渉がこれから、いや既に始まっています。
それでは、チュース!!

422.富士フイルム、米ゼロックスの会社の目的の違い

富士フイルムの米ゼロックス買収については、過去のブログ、393.418.417で書いてきましたが、今年1月の買収合意発表以来、二転三転して、5月13日に米ゼロックスが買収合意解消を発表して振り出しに戻りました。先週5月19日、富士フイルムホールディングの助野社長は、買収合意は有効であり法的手段も辞さない、合意した買収計画はベストであり、買収を継続すると発表しました。両社あい譲らず平行線の状態が続いています。

そもそも一旦合意した買収契約について大株主が反対、旧経営陣を退陣させ、新たな経営陣を送り込みます。米ゼロックスの判断基準は株主にとっての企業価値が最大化であるかどうか、また経営陣に取って最高の報酬が得られるかどうか、簡単に言えば、どうしたら関係者にカネがたくさん入るかです。欧米の会社は、株主の所有であると明言され実行されます。富士フイルムと買収合意した旧経営陣はその富士フイルムとの買収合意の見返りとして多額のボーナスを得ることを約束をしました。大株主はその買収スキームを見てそれは会社(米ゼロックス)の価値を安く見過ぎている。買収するなら株主に応分の分け前をもっと与えろということで、買収合意破棄の訴訟を起こし、その裁判で実質的に勝訴しました。旧経営陣は不服として、上訴しましたが、株主から退陣条件に多額の金銭提示があり、それを受け入れ株主と和解し、正式に買収合意を解消しました。つまり社会的な価値のある、名門企業といえども、株主と経営陣の金銭的な思惑、どれだけ個人的に自分のところにお金が入るかだけで会社は動くのです。

一方、富士フイルムは、古森会長の会社としての拡大志向、量的に大きなものに対する執着、それを支配、統治する願望が判断基準になっていると思います。売上2.1兆円にもなる、事務機、複写機メーカーとして世界最大の企業をマネージする魅力はかけがえのないものです。古森会長は、100億、200億の事業拡大にはあまり興味がありません。1000億単位の事業を考えると言うスケールの大きな経営者です。ですから、米ゼロックス統合は長年の夢だったので、今さら引くわけにはいきません。古森会長に個人的な金銭目的は全くないです。

これは戦略やM&Aの教科書に書いてある、日本の企業は、公器でありその存在、継続が目的であるが、欧米の企業は、株主の利益のための存在である、がそのまま具現かされているので不思議はないのですが、日本人の価値観としては、米ゼロックスは個人的なカネだけで動くの、従業員や幹部社員、取引先のことを考えないのと思うかもしれませんが、それは考えません。従業員や幹部社員もそう考えていますから問題ありません。彼らは買収が嫌なら辞めて次の職を求めていくだけです。

ちょっと引いて考えると、ゼロックスは過去の栄光の会社、業績は悪化し続けており、あえて不良債権を持つことはない、買収できたとしても金額は高騰、富士フイルム全体の経営に悪影響を与える、時間をかけて買収できても優秀な幹部社員、エンジニアは退社していて、もぬけの殻になっている、買収できても名門、プライドの高いアメリカ企業のマネジメントは難しく成功している日本企業はない、等々からこの買収案件は再考とも思うのですが、富士フイルムはお金はかかっても最後まで進めると思います。一度やると言った事は最後までやる会社です。そこが米ゼロックスの大株主の読みで、買収価格を交渉によって引き上げられると思っています。しかし長引けば株主が嫌気をさして売りにでるので、株価は下がります。彼らにしても交渉を長引かせるわけにはいきません。交渉駆け引きとしてファンドに売るとかの話もありますが、本気で買うファンドはないでしょう。

とてもタフな交渉ですが、富士フイルムの将来経営の分岐点になりますから、助野社長以下、実行交渉の役割はとても重要です。買収が暗礁に乗り上げたことに対してメディアから、富士フイルムが1円も出さずにこの買収合意をしたことに米ゼロックス株主が反発するのは当然、買収やりとりの富士フイルム担当と旧経営陣との株主軽視と見られるメールがリークして、脇があまい、M&Aのやり方が稚拙、乱暴とか批判されていますが、それは過去のこと、買収交渉の次のラウンドはこれから始まります。したたかに、粘り強く戦い、双方が満足する妥協点を見つけて欲しいと願います。

それでは、チュース!!

418.海外交渉事では、Noと言って引く勇気と、いざとなったら戦う勇気が大切

海外での交渉事で大事なことは、不都合なことには正々堂々とNoと言い、決裂、撤退もあるという引く勇気を持つこと、それといざとなったら戦う勇気、気迫を持つことです。これはビジネス上の話で戦争をしろということではありません。日本人は争いごとを嫌うので、すぐに妥協案や譲歩、落としどころの話をすぐしがちです。相手もそれを理解していて、日本人は優しい、おとなしい、丸く収めたがる、強く出ればすぐに引き下がる、良い条件を引き出せると思っています。一言でいえばなめてきます。またなめられています。私は海外ビジネスではおもてなしは不要、なめられないことが最重要と常々言っています。言われたらすぐに言い返すことが重要で黙っていたら相手の主張を受け入れたと判断され状況をさらに悪くします。

特に欧米系、中国では、最初に巧妙に恫喝、威嚇してくるのが常です。それが相手の常套手段、シナリオです。ここでひるんだり、うろたえてはいけません。まず事実に基づいたきっちりした理論武装は必要です。感情的になってはいけませんが、自分は正しいという信念のもとで、目に見える強い意志、気迫、ヤル気を出すことは必須です。妥協、compromiseのステップはその後です。まずは強気で戦わないといけません。これは英国で聞いた話ですが、英国の子供は口論になったら子供同士でも最後の言葉を自分が言え、相手に言われて終わりにするなと教育されています。思いやり、やさしさを第一に子供に教える日本とは大きな違いです。

前号ブログの最後に述べた、「富士フイルムは米ゼロックス買収を差し止めた米NY裁判所の仮処分決定を不服として上訴する方針を発表しました。米ゼロックスと大株主の和解を承認しない異議申し立てもするようです。買収計画推進のため法廷で徹底抗戦する」のニュースを聞いてきょうのテーマにしました。富士フイルム古森会長は正義のために戦うことを全く厭いません。むしろ好きです。特に相手が欧米系になるとよりファイトを燃やします。私が推測するこれからのステップは①上記の上訴を行い、勝った場合は従来買収案通りに実施していく。現在の経営陣は買収反対派ですから、彼らとの交渉はより過酷なものになりますが、時間をかけても進めると思います。②上訴を行い負けた場合は、相手は株主への配当増額や富士フイルムからの出資を要求してきますが、それは断り、この買収案件はなかったことにすると思います。しかし米ゼロックスは現在の経営悪化は続き、新経営陣もその対応策はありませんから、富士フイルムに引かれると実は困るはずです。米ゼロックスから買収案での条件闘争が続きますが長引けば、株価は将来不安から下落し株主からの不満、突き上げが増大してきます。③買収案が白紙に戻るか、両者の条件闘争が不調に終わった場合、富士フイルムは米ゼロックス旧経営陣と合意した買収契約不履行の損害賠償を米ゼロックスに求めるでしょう。富士フイルム、富士ゼロックス、米ゼロックスの関係は従来に戻り、富士ゼロックスの株主の75%が富士フイルムで25%が米ゼロックスのままです。富士ゼロックスの独自開発、研究、生産、営業部門は残り、1万人のリストラはなくなります。

富士フイルム古森会長は戦う覚悟はできており、Noは日本人経営者では一番はっきり言える人だと思います。「Noと言える日本人」の著者、元ソニーの盛田会長と同じくらいできます。
私は買収計画が中止になった時は、古森さんの面子がなくなることが一番大きく、損害賠償金は入るし、富士ゼロックスも従来のままなので大きな問題は短期的には起こらないと思います。しかしすったもんだの上で、富士フイルムと米ゼロックスが買収合意できた時、その後の米ゼロックスのマネジメントを日本人富士フイルム幹部役員、社員がしていくことは至難の仕事です。ただでさえ米国老舗大企業のマネジメントはたいへんなのに、ひと悶着あって人心荒廃の可能性の高い米ゼロックス役員、幹部社員、社員のマネジメントはさらに難易度は高くなっています。この進展を注意深く見ていきたいと思います。
それでは、チュース!!

417.富士フイルム 米ゼロックス買収の誤算

5月1日にゼロックス大株主ディーソン氏が起こしていたゼロックスの買収差し止め訴訟の仮処分がNY裁判所から発表され、富士フイルムへの米ゼロックス売却を決定した米ゼロックスCEOの決定は会社に不利益を与えるとして仮処分で無効とされました。米ゼロックス経営陣は上告して戦う決定をせず、株主との和解を発表、訴訟を取り下げるかわりに株主の推薦する6人の取締役受け入れとCEOを含む7人の現経営陣の退陣、富士フイルムとの合意の解消、修正を発表しました。米ゼロックスは事実上買収合意を放棄したのです。

ブログ391.富士フイルムの野望実現、393.富士フイルム、ゼロックス買収の勝者はゼロックス経営陣、で述べたように、この買収は、大義名分は別にして富士フイルムの会長の野望とゼロックスCEOジェイコブソン氏の個人的利害が一致した蜜月関係の中で成立しました。この買収合意反故は、富士フイルム大変革を成功させた古森会長にとって、初めての誤算、挫折だったと思います。大株主2人が買収反対訴訟を起こしても委任状決戦まで元CEOは戦うと読み、決戦になれば勝てると踏んでいたはずです。しかし欧米、特にアメリカの株主は日本の持ち合いの株主と違い、会社は個人株主のものと確信しています。もの言う株主です。そこが欧米の大企業のマネジメント経験のない富士フイルムは読み違えたかもしれません。

銀塩写真フイルムが消滅した時、富士フイルムが勝ち残り、コダックが消えた違いは、莫大な内部留保・キャッシュの差が大きかったです。日本の株主は会社持ち合いで内部留保を将来の研究開発、投資のために許しますが、アメリカの株主は許しません。キャッシュがあれば株主配当を強く要求、実現させます。富士フイルムが勝ち残れたのも内部留保からの大胆な研究開発、40社のM&Aができたのです。古森会長のモットーは、乾坤一擲の勝負に勝つこと、自分にはその勝負に勝つ強運を持っていること、ビジネスはパワーゲームである、です。そのモットーで今まで勝ちきってきましたから今回の買収合意の反故は大誤算です。許せません。

これから、米ゼロックスとの交渉は非常に難しいものです。古森会長は旧経営陣との合意は一度OK出したのだからそのまま履行せよと主張しますが、新経営陣は買収自身がNoですから、双方合意の妥協点を見つけるのは難しいことに間違いないです。米ゼロックス新経営陣の要求はプライドの塊で面子を何より大切にする古森会長は飲めないことでしょう。アメリカの魂とも言える会社の買収、ロックフェラーセンター、ペブルビーチのゴルフ場、ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメントなどはなかなかうまく行きません。ゼロックスもアメリカ代表企業として燦然と輝いていました。その企業が日本の会社の軍門に下るのはアメリカ人にとって感情的な反発もあると思います。裁判所の判定はそういうところも加味されていたと推測します。

しかしこの買収案件が最悪、なくなっても元の関係に戻るだけです。富士ゼロックスの親会社の株主として富士フイルムが75%、ゼロックスが25%の関係に戻るだけです。それぞれが従来のフィールドで独自に頑張っていけば良いだけです。不謹慎ですが、富士フイルムにしても日本式のやり方では、アメリカの名門企業をマネージしていくのは大変です。

米ゼロックス買収発表の席上、古森会長は世界の事務機市場を変えていく、富士は一円も自分のお金は使わないでこの買収を成立させたと自画自賛していました。絶頂でした。ですから今、古森会長は怒り心頭であること間違いなく、連休中ですが関係者全員が出社して対応策に苦慮しているはずです。富士は原案通り、米ゼロックスは解消の立場ですから、決裂していくでしょう。米ゼロックス経営陣はそれを望んでいますから、話し合うにしても法外な要求をしてくるでしょう。富士も上訴するか、契約破棄の訴訟を起こすかもしれませんが、ますます関係は悪化しますし、米ゼロックスはアメリカで戦う訴訟は勝てると思っているでしょう。相手が日本の会社ですから。
これがリアルで過酷なグローバルビジネスです。古森さんはよく私にグローバルビジネスの相手は利害だけで動く、絶対に相手を信じるなと言っていました。今回は信じた相手が株主からの訴えで、自分を裏切りあっけなく白旗を上げたのですから相当なショックです。古森さんは外見、豪放磊落、強面にみえますが、内面は繊細、デリケートで気にするところもあります。そして激高しやすく、高齢ゆえにとても心配です。きょうの富士フイルムの米ゼロックス買収頓挫は、グローバルM&Aの難しさを物語っています。

このブログを書き終えたところ、たったいま富士フイルムは米ゼロックス買収を差し止めた米NY裁判所の仮処分決定を不服として上訴する方針を発表しました。米ゼロックスと大株主の和解を承認しない異議申し立てもするようです。買収計画推進のため法廷で徹底抗戦するようです。古森会長の強気は健在です。まだまだあきらめないようです。

それでは、チュース!!

415.トップダウン信者とボトムアップ信者の戦い

私の仕事の主テーマに、戦略、方針をいかに上から下に伝え行動させるか、また下から上に現場情報を流して経営戦略に反映させるかがあります。なぜ、そんなことを大切と考えるようになったかのいきさつを話します。

私が勤めた富士フイルムは、銀塩写真フィルムで圧倒的な差別化技術を持ち、長い間会社の優位性を技術力で維持してきました。優秀な人材はたくさんいましたが、ほっておいても売れる素晴らしい商品がありましたから、人材は金太郎飴的で良く、尖った人間は一部のリーダーになる人間以外は必要ありませんでした。ですから、トップマネジメント、幹部管理職は圧倒的な権力、権限を持ち、トップダウンで事を進めていました。私の上司だった現在の富士フイルム古森会長はその典型でした。古森氏がドイツの社長時代、彼のスタッフN氏は、古森さんの強権、横暴に見える彼のビジネス姿勢に良心から危惧を持ち、変革してもらいたいと思っていました。90年台後半のその頃、日本で職場風土改革の会社を設立していたS氏の本「なぜ、会社は変わらないか」がベストセラーになっていました。内容は暴君だった部長が、部下とのやりとりを通して改心して民主的なリーダーに変革し、部も会社もハッピーになるというストーリーでした。N氏は、その本を読み感銘しこの内容を古森氏に共感してもらい、古森氏も会社も変革して行こうという企てをし、日本からS氏を高額で呼び研修を行いました。古森氏は、S氏が自分と同窓の東大教養学部の博士を取得していることに敬意をはらいました。S氏は、若い時にドイツに滞在し自分の会社名もドイツ語から取り、ドイツ語学学校も設立、運営するほどのドイツびいきでしたので、忙しい中そのオファーを受けデュッセルドルフまでやってきました。

そもそも古森さんは職制を通した超トップダウンを信望、S氏は権力、権限による組織マネジメントを否定、フラットな組織で内発的動機だけで動く組織を信望、組織風土が良くなれば自然と良い戦略は出てくると言う考え方です。これは宗教が違います。水と油です。私はうまくいかないと懸念していましたが、N氏は強行、研修はなんとか終了しましたが、その後の会食で、古森氏とS氏はバトル勃発、双方とも超強気で自信家、譲ることはしませんから、激しい相手非難になり決裂したまま終了しました。その場にいたN氏は胃痙攣になって病院に行ったか運ばれたそうです。

当然古森氏は、その後、なぜあんなのを呼んだのと激怒、私はその後S氏の会社で少し働きましたが、S氏は古森さんを、今どきあんな軍隊的な高圧的なリーダーがいるなんて信じられない。富士フイルムは彼がリーダーならじきにつぶれると何回も言っていました。これは、考え方が180度違うから必然として起きるバトルです。S氏は、普段は弁証法のへーベン、アウフへーベンを持ち出し、異なった意見も受け入れる姿勢を見せるのですが、この時は完全否定でした。

今から20~30年前まで、日本の会社の技術力が圧倒的に強く差別化出来ていた頃は、やることを細かく指示するトップダウンが効率的にワークしていました。灰皿やファイルが飛び、罵声が響くパワハラがあっても、問答無用で上の言う通り従って動く方が効率的な時代はそれが効率的でパワハラは黙認されていました。しかし今の時代は、現場に近いところで、現場で起こっているところの情報、特に悪い情報も上に上がって行って戦略を適確に修正しなければビジネスの成功は危ういと思います。そしてその情報アップ・ダウンの時は風通しの良い職場風土は大切です。しかしS氏が言うように職場風土が良くなれば良い戦略は出てきて会社は良くなると言うのは違うと思います。大きな戦略は視座、視点が高く、未来の環境変化情報に敏感で、自社を取りまく状況の視野が広く、社会の情勢、自社の状況を理解が深い、高度な能力、スキルを持った人間しか良い戦略はできないと思います。最近、戦略に困った経営陣が現場でお客に接するセールスや、サービスマンにお客の声を直に取れるのは君たちだから、君たちが現場から戦略を作って欲しいと指示を出します。しかしそれは無理です。彼らの本来の機能は売ること、修理することです。

戦略の実行のコンサル、研修をしていて私の大きく影響を与えてくれた、強烈なリーダーたちのそのバトルを思い出しました。ちなみに富士フイルムは、大きな変革を実行、成功、ゼロックスまで傘下にいれ経営は順調です。いっぽうS氏の会社も実行経営者は変わりましたが、風土改革の需要は大きく、ビジネスは堅調のようです。まあ大人げもなくケンカする必要もなかったと思いますが、お二人のエネルギーはすごかったです。

それでは、チュース!!

393.冨士フイルムのゼロックス買収の勝者はゼロックス経営陣ではないか?

ブログ391.で今回の買収で冨士フイルムの野望実現ということ書きました。確かにゼロックスを支配することは長年の古森会長の熱い想いだったと思います。しかしこの買収は富士フイルムにとって、ビジネス上の本当に成功かというと、古森会長の得意満面の顔と「ゲームチェンジだ」との強気の発言とは裏腹に疑問が残ります。経営、戦略で最も大事なのは、企業立地で、時代の流れに乗ることです、漁師がどこに網をかけるかに似ています。ゼロックスの1970年台、1980年台は複写機の他にコンピュータでもアップルや、マイクロソフトよりも先端を行っていました。まさに世界をリードしていた会社です。しかしコンピュータの小型化戦略で敗れ、複写機、事務機に戻らざるを得なくなってから、凋落が始まりました。複写機の市場はデジタル化で縮小、競合も多数でてきました。そこで、2000年に富士ゼロックスの持ち分の50%のうち25%を冨士フイルムに譲渡、そして今回、冨士フイルムにゼロックス本体を売却(50.1%の株式)、支配権を譲りました。ここ数年、ゼロックス本体の業績は悪化し続け、マネジメントは窮地に陥っていました。自分たちのボーナス、給与も保証できなくなってきました。そこで考えたのが、ゼロックスの冨士フイルムへの売却です。これで、ゼロックスマネジメントは豊富な買収資金を手にし、子会社になった好調な冨士ゼロックスからの配当も当面入ります。この売却ビジネスプロセス成功により、ゼロックスマネジメント上層部は、多額なボーナス、桁外れの退職金を手にして辞めていくでしょう。自分たちの面子もたち、実も取る実に見事な戦略の結果です。今回の勝者は彼らだと思います。

このあと起こることは、ゼロックスの優秀な技術者たちの退職です。彼らも十分なボーナスと、退職金を手にします。少し時代遅れでも複写機の技術は残るでしょうが、優秀なエンジニアは去りますので、あらたな開発、進化はできないでしょう。そうなると、子会社になった富士ゼロックスから、大量のエンジニアを本体に派遣、開発を続けなければなりません。これは富士ゼロックスにとっては相当な負担です。冨士ゼロックスは従業員の2割、1万人のリストラも行われますから、当然士気も落ち、優秀なエンジニア、社員も流出します。これは、かなりの危機的な状況です。この中一番たいへんで、苦労するのは、この買収成功の使命を受けて日本からゼロックス本体に送り込まれる、富士フイルムの役員、社員であることは間違いありません。

言う事を聞かない、残ったゼロックスのマネジメント陣をコントロールするのは至難の業です。今までの冨士フイルムにはなかった経験です。しかし古森会長からは、この買収は絶対に失敗は許されないという厳命が派遣される日本人には課せられますから、板挟まってしまいます。まさに試練の日々が続くことが予想されます。

実は、冨士フイルムは今から、30年前に全く同じような買収をしました。これには私も深く関与したので良く知っていますが、印刷関連で当時、最先端の画像処理機器を持った英国のクロスフィールド社の買収です。当時、材料しか持っていなかった冨士フイルムは、同じ材料会社の米国Dupont社と高額を出し合って買収しました。冨士から見たら絶世の美女で、声もかけることもできないためらう相手でした。しかし大喜びで買収してみると、持っている技術は既に時代遅れで、その後印刷業界の主流になったDTPには使えないものでした。社内体制もボロボロ状態、そしてわがままでプライドの高い英国人のマネジメントは、日本人には不可能で、不満を抱いた英国人マネジメントは高額の退職金を手に次、次と辞めていき、技術者も続々やめていきました。その後Dupontの持ち分株式を買い取った冨士は大量のエンジニアを日本から送り込みました。結局は再興することができず、10数年前に持ち出しでマネジメントバイアウトを行い決着をつけました。大きな授業料を支払いました。今回の買収は、その時のことが、デジャブのように思い起こされました。

もちろん、これは私のネガティブな推測で、冨士のマネジメントはそれらは織り込み済みでの決断だったと思います。前回のブログでも書きましたが、ロジカルには正しい判断だったでしょうが、これをプラン通り実行するのは、本当に大変な仕事です。私の冨士フイルムの後輩にあたる誰かが、この重責を負うのでしょうが、覚悟を決めてやるか、できなければ最初から逃げ出したほうがいいでしょう。それほど困難な仕事だと思います。

それでは、チュース!!

391.富士フイルムの野望実現と富士ゼロックス社員の嘆き

昨日、富士フイルムホールディングが米ゼロックスを買収(株式50.1%取得)、現在子会社になっている富士ゼロックスを米ゼロックスの100%子会社にして経営統合すると、いう発表をしました。今年7~9月にはそのプロセスを完了するそうです。目的は、世界のコピー機需要減への対応で、言いかえれば統合による重複機能のリストラ、富士ゼロックスは2020年までに国内外で1万人、従業員の2割を削減するそうです。経営難に陥っていた米ゼロックスは歓迎し、アジア、オセアニアに販売限定されていた富士ゼロックスが米ゼロックスとの統合によりグローバルで効率的な営業展開ができるメリットは富士フイルムホールディングにあります。古森会長は「極めて価値創造的な統合」と意気込んでいます。コピー市場は縮小が続き、世界規模でのな改革はマクロ的に見て正しい判断です。

この統合の伏線は、昨年6月に起きた、富士ゼロックスの海外現法不祥事をきっかけに、富士フイルムホールディングが経営陣を富士ゼロックスに送り込み、実質的な富士ゼロックスのガバナンスを取ったことにあります。(ブログ、326.富士フイルムと富士ゼロックスの微妙な関係)これにより今回の両社の統合が可能になりました。そしてこれは、56年前に米ゼロックスからの支援で複写機事業を始めた富士フイルムと米ゼロックスの立場を完全に逆転させた象徴的なできごとです。富士フイルムにとってこれは長年の夢でした。これにより、売上規模2.1兆円の世界最大規模の複写機、事務機、デジタルプリンティングの事業を傘下にできたのです。古森会長が実行した、銀塩フイルムからの脱却、新しい事業ドメイン創出に加えて、新しい輝かしい成果が加わりました。昔から自分は強運だと豪語していましたが、まさにその通りです。

しかし、視点を富士ゼロックス社員に移すとそこは暗澹たる気持ちの人で充満しています。2000年までは、富士フイルムと富士ゼロックスは同列でした。2000年以降冨士フイルムホールディングの子会社にはなりましたが、まだ1段下です。2000年以降も冨士ゼロックスのビジネスは堅調で、銀塩フイルムがなくなったあと、化粧品や医薬品がメディアでは脚光をあびていますが。冨士フイルムホールディングの利益を支えていたのは冨士ゼロックスでした。そこに冨士ゼロックス社員の誇りがあり、経営陣は昔のゼロックス人材で冨士フイルムから送り込まれた人は実権がとれないまま去っていきました。環境が激変したのは、先程言った富士ゼロックスの海外子会社の不祥事でこれによりガバナンスを冨士フイルムが取りました。そして今回の統合なりました。これは富士フイルムから見て2段下です。完全に差をつけられました。富士ゼロックス社員からすれば、自分たちはずっと真面目に日本、アジアでビジネスを続け業績を出し続け、冨士フイルムにも長い間貢献してきた。何も悪いことはしていない。それなのになんで今回の米ゼロックスとの統合で1万人もリストラされなくてはいけないのか、理不尽、不条理ではないかと表にはだしませんが、内心、強く思っています。しかしこれはマクロ的な経営判断ですから、粛々と進んでいきます。これが現実ビジネスのドライな世界です。海外不祥事さえなければと、冨士ゼロックス社員は思ってもしょうがないのです。その時、このシナリオは冨士フイルムの中に出来上がっていたと思います。冨士フイルムにとってはあの事件が冨士ゼロックスのガバナンスを取れるチャンスだったのです。

私は、米・冨士ゼロックス統合の課題は、次のようなものだと思います。

1.冨士ゼロックスのリストラ、これは古森会長が信頼するリストラのプロが富士ゼロックスに送りこまれていますから、問題なく進むでしょう。富士ゼロックス社員に不満はあっても従うしかありません。多少の軋轢は生まれますがいずれ解消するでしょう。富士ゼロックスは親会社が米ゼロックスになったほうが、従来の親密な関係性が発揮され、富士フイルム直接よりは仕事はやりやすくなるかもしれません。

2.米ゼロックスのガバナンス、米ゼロックスのキーポジション、もしくはトップには古森会長の秘蔵っ子の若手役員が送り込まれるでしょう。しかし冨士フイルムにとってもこれほど、大きな企業買収、それも癖のあるアメリカトップ企業のマネジメントは初めてです。ソニーをはじめ多くの名だたる日本企業がアメリカ企業のガバナンスに失敗しています。冨士フイルム・古森会長流の超トップダウンが通用するか、これが最大の課題だと思います。彼らは買収された側は面従腹背です。知らないうちにかってにやります。古森会長は対話、会話は十分できますが、マネジメントではあえてしません。圧倒的なパワーでガバナンスをする流儀です。それで今まで成功してきました。今回も通用するか、どうかが正念場です。日本企業はアメリカ企業のM&Aはできますが、マネジメントは苦手なのです。しかも過半数をわずかに上回る株式では、富士フイルムのやりたい重要戦略、施策がすんなり、米ゼロックス幹部、物言う大株主に通るとは思われません。

3.縮小する複写機、事務機、プリンター市場に今までにない、新技術、新製品、をタイムリーに導入、成功できるかです。冨士フイルム、冨士ゼロックス、米ゼロックスは固有の先端技術を持っていますが、これが統合され、シナジーを発揮して世界が驚く新製品を出し続けていけるかです。それがなければ、尻つぼみの縮小市場の巨大な負け犬になってしまいます。

古森会長はよくわからない、説明のできない強力なパワー、オーラと強運を持った、類まれな人です。きっとこの賭けも成功すると踏んで乗り出していったのです。彼は論理的な、理詰めで判断するのではなく、勘で意志決定する人です。ですから今回の結論も大丈夫だと思います。私の勘ですが。

それでは、チュース!!

326.富士フイルムと富士ゼロックスの微妙な関係

先日、富士フイルムホールディングが、富士ゼロックスの海外子会社(ニュージーランド、オーストラリア)の数年の不正経理よる粉飾、375億円を発表、社長の助野氏が記者会見で深く謝罪していました。助野さんは私の富士フイルム入社同期で、時々会って話すこともあるのですが、いつもの明るさと軽妙さは消え、同じ人かなと思うくらい重く暗い対応でした。やはり大会社の社長は重責です。よりすぐりに選ばれた人しか大会社の社長はできません。助野社長の説明によれば、「富士ゼロックスは長年富士フイルムHDに利益貢献をしてくれていたため、自主性を尊重細かい指示は出していなかった。今後は富士フイルムHDが直接富士ゼロックスのガバナンス強化を図っていく」とのことでした。

富士ゼロックスは2001年以降は富士フイルムホールディングの75%の子会社ですが、それ以前は1962年の創設以来、富士フイルムと英国ランクゼロックスの50%づつの対等持ち分で、技術力を持つランクゼロックスの方との関係のほうが強かったです。そもそも設立の経緯は、電子複写部門を富士フイルムの一事業部にする案もあったのですが、当時、中興の祖と言われた実力社長小林節夫氏が、富士フイルムに入社していたご子息の小林陽太郎氏と腹心の部下で富士ゼロックスを設立しました。ですから小林陽太郎氏は35才で役員、45才で社長という異例の出世をし、かつ実績を上げ、富士ゼロックス社長の他にも経済同友会の代表として長年財界の顔にもなりました。アメリカのウォートンMBA出身で個性尊重、自由闊達な小林陽太郎氏が作るおおらかな社風と、財界嫌いで鉄の規律を尊重する当時の富士フイルムの大西会長の相性が良いわけがなく、50%の親会社に対する利益分与以外は全く関係がありませんでした。その関係の薄さは、子会社になった今でも続いており、陰では緑(富士フイルム)、赤(富士ゼロックス)と言って中傷しあいます。2001年の連結子会社以降、富士フイルムから大勢の役員、幹部社員が両社の融和というか、富士フイルム化のために送りこまれましたが、富士ゼロックスの富士フイルム敵視は続き、彼らは早々に仕事をさせてもらえずに帰還か退職しています。私の先輩、友人にも多数います。なぜ子会社なのに富士ゼロックスはガードが堅く、富士フイルムに対して排他的にやっていけたのかというと、実は今や伝説になっている富士フイルム第2の創業が背景にあります。2000年以前は、富士フイルムの利益率は15%、富士ゼロックスは8%くらいで、高収益の富士フイルムは富士ゼロックスを見下していました。しかし2000年以降、富士フイルムの銀塩フイルムの凋落により、メインの感材、メディカル、印刷の利益は大幅に収益悪化、イーブン近くにまで落ち込みました。化粧品、医薬品によるドメインの大変革もメディア受けは良いですが、大きな収益貢献までにはいたっていません。そこで大きく貢献したのは富士ゼロックスで1兆円の売り上げ、800億円の利益の75%を親会社に貢献しています。窮地に陥った富士フイルムHDの屋台骨を支えたのは富士ゼロックスだったのです。従来からの富士フイルムへの排他性に加えて、富士フイルムHDを支えているのは自分たちだと言う自負から、より富士フイルムの干渉を拒むようになり、自立性が強くなったのだと思います。

それから今回の事件は、英国系のニュージーランド、オーストラリアで起きました。富士ゼロックスの商圏は、アジアとオセアニアに限定されています。アジアの現法は日本人社長を置きガバナンスはできるのですが、欧米系、特に英国は表面はフレンドリーですが、内心は日本、日本人を馬鹿にしている人が多く、自分たちのことに干渉されることを極端に嫌がります。富士ゼロックスは英国系の会社のマネジメントに慣れていなかったのではないかと推測します。富士ゼロックス本社はこの不正経理に早くから気づいていたと思います。しかし、親会社に知れれば当然親会社からの干渉が強くなるため、なんとか自分たちだけで処理しようとして後手後手に回ったのでしょう。今回の事件はこのような、歴史的背景から生まれたものだと思います。

いづれにしろ、富士フイルムHDの古森会長の決断は早かったです。5人の富士ゼロックスの役員解任と、富士フイルムHD,富士フイルムから7人の役員が富士ゼロックスに入ります。古森さんも会長として富士ゼロックスに君臨、ガバナンスを効かせます。また富士フイルムのリストラを厳粛、着実に実行するため外部から富士フイルムに招聘された名物役員も富士ゼロックスに派遣されます。富士フイルムHDからすれば長年やりかった、富士ゼロックスの直接ガバナンスができることになりました。しかし今回の不祥事は、遠いオセアニアの国で起きたことであり、日本で働く多くの善良な富士ゼロックス社員には関係ないことでした。しかし自由な富士ゼロックスの社風は富士フイルム風に変わっていくことでしょう。これも世の中の流れ、環境変化への適応ということなのでしょうか。

それでは、チュース!!

208.東芝メディカルが富士フイルムではなく、キャノンを選んだ理由

不祥事が続いた東芝は、主力事業であり今後の飛躍が期待できる医薬関連事業の東芝メディカルの売却を決定しました。応札してきたのは、医薬事業分野では、実績、経験もあり東芝メディカルとのシナジー効果も多いに期待できる富士フイルムと、デジカメ、プリンター以外の大きな新規分野を模索するキャノンでした。当初の下馬評では、入札価格、他諸条件でで富士は断然有利であり、あるメディアは東芝メディカルは富士にほぼ売却の記事を流しました。

しかし、ふたを開けてみると不利な状況だったキャノンが逆転勝ちしました。これは私もかなり驚きました。富士フイルムは東芝のその決定は公平でないとして、質問状を出しましたが、東芝が出した結果は覆りません。私は、長く富士フイルムに居てトップマネジメントのやり方も見てきました。また11年前に富士から離れ、内側からではなく外から見た富士フイルムも見えてきました。また富士フイルムとつきあいのある様々な会社での評判も聞いてきました。そこから感じた今回の逆転劇の理由を私なりに考えてみました。富士フイルムは、銀塩写真がなくなったあと、奇跡の復活を果たした会社として世界中から尊敬と称賛を受けています。これは間違いありません。大絶賛です。しかし今回のM&Aには苦汁を飲みました。その理由は、

仮説1
富士フイルムは、写真業界では圧倒的なNo1.帝王です。I am OK You are not OKの傾向が強い体質です。自分のやり方がベストと確信しています。相対的には見ないです。自分が絶対です。ですから、買収した会社の事情などあまり気にせず、自分のやり方に従わせるというのが常套手段になっています。富士とつきあいのある会社は、すべて富士フイルムのやり方に従わなければならないという不満を言っているところが多かったです。その横柄に見えてしまう、態度、姿勢が敬遠されたのではないでしょうか。

仮説2
キャノンは、私のブログNo.12 CANONの執念で書きましたように、富士フイルムに対して怨念に近い執念を持っています。対富士フイルムとなると異常に燃え、会社のベクトルがひとつ、1枚岩になり自社の持つ最大限の力を発揮する会社です。東芝メディカルもそういう会社と一緒になったほうが、自分たちの力も十二分に発揮できますし、またキャノンも自分たちを事業の先輩、師匠として話しを聞いてくれる可能性が高いと思ったのではないでしょうか。

仮説3
富士フイルムのメディカルの担当役員は、東芝から転職してきた人であり、東芝のことを熟知しています。それが、良い方にでるか、悪い方にでるか、東芝は少し恐がったのかもしれません。

あくまで、これは私の推測、憶測です。

富士フイルムは今回の敗北は看過しないでしょう。きっと対東芝メディカル、キャノンに対して、ものすごい対抗策を打ち出してくることは間違いありません。富士フイルムは本当にすさまじい会社です。

それでは、チュース