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581.富士フイルムHDの米ゼロックスの買収破談は、両社に良い結果

ざっと富士ゼロックスをめぐる、両社の経緯をおさらいしますと、①富士ゼロックス創業(1962)富士フイルム50%:英ゼロックス50%の持ち分 ②2001年米ゼロックスのは1980年~1990年代の経営不振により、富士ゼロックス株式25%を富士フイルムへの売却、富士ゼロックスは富士フイルムの子会社に、富士フイルム:米ゼロックス75:25 ③但しその後も富士ゼロックス出身の経営者によるガバナンス継続、富士フイルムの銀塩感材消失に売上、利益を補完する ④富士ゼロックスNZ経営陣の不祥事(2017年)により、富士フイルムHDが富士ゼロックスのガバナンスを取る ⑤2018年1月、富士フイルムHD、米ゼロックスの買収発表、7月までにクロージング富士ゼロックスは、米ゼロックスの100%子会社になる、富士ゼロックスの1万人リストラ発表 ⑥モノ言う、米ゼロックスの株主、買収契約無効を米裁判所に提訴、一審は株主勝訴二審は富士フイルムHD勝訴、米ゼロックスは株主に1株40$の配当を富士フイルムに要求、富士フイルム拒否 ⑦2019年12月 買収破談と富士フイルムHDは、米ゼロックスから富士ゼロックスの残り株25%を買収、100%子会社とする。

2018年1月の買収発表の時は、ペーパーレス時代を迎えている複写機事業にとって、米ゼロックス・富士ゼロックス統合による経営効率化と新規事業の創出は、論理的には正解です。それしかなかったと思います。しかし、米国有数の老舗伝統企業がアジアの国の軍門に下るのは、ビジネス論理以上に心理的抵抗が強かったと思います。会社は株主のものが明白なアメリカでは、金さえ入ればいいという考えが、経営者も株主にもありますから、先の米ゼロックス経営者は、事業が低迷するなかで、富士フイルムに買収される選択をして、自分たちも高価な報酬を得て経営から退き、それなりの配当を株主すればよいとの選択をしたのだと思います。表向きには米ゼロックスの買収案での評価が不当に低いということで株主は買収異議を唱えたのですが、日本の会社の下に入るのは嫌だ、白人は黄色人種より階層が上という意識を感じます。

結果として、富士フイルムは完全に富士ゼロックスを自分の支配下に置き、富士フイルムとのシナジーを完全にフリーハンドで行うことができます。欧米の企業にお伺いをたててからでないと意思決定できない仕組みは時間ばかりかかってワークしません。富士ゼロックスは富士フイルムに比べたら優しい会社ですから、富士フイルム流の厳しい管理をしていけば、リストラは容易にできました。そこでの構造改革は終了しています。米ゼロックスとの販売テリトリーの棲み分けも排除されますから、世界中自由に売れるようになります。かなり良いディールだったと思います。

一方の米ゼロックスは、富士ゼロックス株売却の2500億円が手元に入りましたから、このお金で経営者と株主は一時的ですが潤うでしょう。欧米の会社は長期的視点に欠けるところもありますから、それでいいのです。先日米ゼロックスが仕掛けた、3兆3千億円でのHPの買収案は、常識的には荒唐無稽です。今や格はHPのほうが上ですから、提案は一蹴されましたが、HP経営陣より、統合案には興味がある、HPが米ゼロックス買収の検討を始めたようです。その時は米ゼロックス経営者の協力が必要と言っています。これは、HPが米ゼロックスを買収時は、米ゼロックスの経営者は降りてください、お金払いますからというように聞こえてきます。どうも最初から両社の出来レースのようにも思ってしまいます。日本の会社に買収されるより、米国の会社のほうがいいと思っているのでしょう。

私は30年前に、米国Dupontと富士フイルムで英国の会社を買収して共同経営した経緯に関わってきました。プライドの高さは、英>米>日でした。英国の会社は、買収されたのにパートナーが変わっただけと居直って全く指示を聞きません。幹部に文句を言うと高額の退職金をもってすぐにやめていきます。実はそこが最初から彼らの狙いだったのです。欧米人の価値観、文化、会社への意識は日本人とかなり違います。そこがベースで議論が始まりますから、結論が合うわけがありません。結局Dupontも経営から降りて、富士単独で英国の会社の経営を行いましたが、うまくいかず10年ほどでその会社はMBOしました。その会社は現地人だけでそれなりにうまくやっています。欧米企業との連携、M&Aはもはや避けて通れないものですが、その根っこが違うことは十分に認識しないとだめです。日本人の性善説、話せばわかるは足元を見られるだけです。

それでは、チュース!!

500.振り出しに戻ったゼロックス買収の勝者と敗者は?

富士フイルムHDFF)は去年1月、所有する富士ゼロックス(FX)の株のFXへの売却資金で米ゼロックス(XC)の50.1%を保有して子会社化する買収計画を発表しました。当時の古森会長は業界のゲームチェンジとその将来を熱く語っていました。しかし物言う株主の登場で、経営陣は買収反対派に交代し、一度合意した買収を破棄しました。XC買収案合意は元の経営陣の株主への背任行為と物言う株主は提訴、1審は勝訴しましたが、2審はFF側の勝訴になりました。昨年12FF古森会長は、買収計画の一方的破棄は契約違反とXCを相手に1100億円の損害賠償で迫っていましたが進展は見られず、とうとう当初の買収合意内容を変えるつもりはない、買収は難しくなったと発表、事実上の買収案の取り下げとなりました。

一方でFFトップはXCトップと11月に技術、生産協力、販売権の住み分けなど買収案発表前の関係に戻すことで合意しました。大山鳴動して・・の感もありますが、元の形に戻ったのです。

ではこの一連の中で、勝者と敗者は誰だったのか、敗者はXCでしょう。株価は1年前より40%の下落、FFから良い条件を引き出して、将来ビジョンをFFに任せて経営陣は退出、株も高値で売り逃げという思惑がはずれ、混沌とした状態が続いています。次の敗者はリストラされたFXの社員たちです。FF古森会長が言われるようにFXの構造改革は進み、リストラは完遂されました。FFからの構造改革の推進に嫌気がさして自主退職する幹部、管理職社員も多数出ているようで、旧知のFXの友人からは嘆き節が聞かれます。しかしそれはFFからしたら想定内で、振るわなくなったFFのメイン事業で余剰になった管理職の新たな仕事の引受先になっています。FXではFFによる緑化運動と言っているそうです。そうすると短期的にみれば勝者はFFだということになります。なんの損失もなく、ビジネス形態は従来のまま、FXの構造改革は実行でき、FXの要職をFF経験者で占めることになり、FXの一層のFF化を進めることができました。

しかし長期的に見ると勝者はいるのでしょうか、1年前の買収発表時に、古森会長が言われた、XC,FXの重複機能の合理化による組織の活性化、世界最大の事務機器企業として、将来に向けた、複写機以外の新事業、ビジネスの両社による共創、創出、創造の可能性はほとんどなくなりました。そしてそれは、FFの主力事業であるFXビジネスの縮小均衡、消失のモードに入ってしまいます。もちろん優秀なFF,XC双方のトップが出した結論出すから、正しいと思いますが、視点をあげて、長期的に見るとなんとかならなかったのかなと外野席からは見えてしまいます。

それでは、チュース!!

 

432.冨士ゼロックスのリストラと社員のモチベーション

冨士フイルムHDは米ゼロックスの買収合意破棄による損害賠償1100億円と合意破棄違約金200億円を米国の裁判所に提訴しました。外人に舐められることの大嫌いな古森会長ですし、提訴は正当です。しかしアメリカでの裁判ですので公正に行われるかは疑問です。この買収の成否に関わらず、1月に発表された冨士ゼロックスの1万人のリストラは粛々と進行し、先日新潟事業所の閉鎖も発表されました。これから早期退職希望者の募集も始まっていくでしょう。そして先週冨士ゼロックスの社長交代の発表がありました。冨士ゼロックス生え抜きの社長から古森会長の右腕として冨士フイルムの大変革を実行したT氏に変わりました。T氏は冨士フイルムにしては珍しく10数年前に請われて他社から入社しました。冨士フイルムの第2の創業の表看板は、銀塩フイルムから脱却、ドメインの大変革であり、医薬品、化粧品への華々しいデビューでしたが、その裏で組織統合、リストラ、希望退職の実施という、長年苦楽をともにした仲間への情を感じてしまう生え抜き管理職、役員ではできない裏の重要な仕事で次々と成果を上げトップから高い評価を得ました。そして冨士フイルムHD副社長になり今回冨士ゼロックスの社長に抜擢されました。私は直接お会いしたことはありませんが、彼と一緒に働いた富士フイルムの友人たちの話では、今までの富士フイルムにはいないタイプのすごいキレ者で、権限を自分に掌握することがたくみで、仕事の目的のためなら摩擦、軋轢はいとわない強靭な精神な人のようです。これから本番になる冨士ゼロックスの構造改革(リストラ)の切り札です。

冨士ゼロックス社員は、1月のリストラの発表以来、モチベーションダウンが始まっているという話を聞きます。冨士ゼロックスと一緒に仕事もしましたし、冨士ゼロックスの友人たちからの話では、冨士ゼロックスは創業以来、明るく、自由闊達で、風通しが良く、マネジメントも社員のモチベーションに気を使い良い環境に配慮してくれた会社でした。だから愛社精神旺盛で社員は会社を信用、信頼、大好きだと言う人が多かったです。

一方の冨士フイルムは、私は古森会長が部長時代から、彼がピラミッドの頂点になる組織しか知らないのですが、会社・上司は社員にミッション・仕事(should)を与えれば、社員、管理職は自分でどうやるか(how)考え、スキルは自分で身につけ、ヤル気(will、motivation)は個人の責任で、会社や上司が関与、引き出すものではないという厳しい組織風土でした。それでも会社の高ブランド、高収益、卓越した技術力、高給与でしたから、優秀な新人は大勢集まり問題なくうまく機能し続けました。苦しくてもみんな上を目指して頑張るのです。冨士フイルムにはYMO「いまに、みていろ、おれだって」という言葉があって先輩社員から若い時は何があっても我慢するのだと言われました。つまり冨士ゼロックスと富士フイルムは全く違う組織風土の会社だったのです。

しかし時代は変わりました。これからの冨士ゼロックスは冨士フイルム流のやりかたで統治されていくでしょう。冨士ゼロックスの社員はもはや古き良き昔を懐かしがっていることはできません。冨士フイルムのやりかたに順応していくしかないのです。それでは自分のモチベーションが維持できないと思う人は新たな境地に出て行くしかないです。自分の能力の世間的価値を把握し、自信があるならチャレンジして出ていけば良いと思います。なければしばらく自信がつくまで様子見です。現実を直視して対応していくしかないです。短気を起こしたり、やけになってはいけません。まずは自分の生活を守り、維持していかなくてはなりません。

このような、M&A、リストラの影響は米ゼロックスでも同様に起きますが、社員モチベーションの問題はおきません。欧米での社員平均社歴年数は5~10年であり、管理職、マネジメント、CEOは、ほぼ転職組です。ポジションを上げるのは転職、ヘッドハンティングが常識です。今回の買収も日常よく起こることで自分のポジション、給与アップのチャンスととらえるでしょう。冨士フイルムと買収契約をした元米ゼロックスマネジメントは、高額退職金を得てほぼ退職してますから、これから管理職、社員も同じことをするのが普通なのです。そこはビジネスライク、ドライに対応します。

冨士ゼロックスは今までは良い社風で、居心地が良かったのです。しかしもうそこには戻れません。これからは厳しい言い方ですが、自分のモチベーションは会社に頼らず自分で上げていくしかないのです。

それでは、チュース!!

428.富士フイルム、米ゼロックス買収のせめぎ合い

昨日午後、富士フイルムHDの古森会長は産経新聞社などとの共同インタビューで、「米ゼロックス買収は、締結した買収契約が履行されなければ損害賠償も辞さない。米ゼロックスからの1株あたり40ドル引上げでの買収提案はNoと明言。引き続き交渉は続けるが、まだ新提案はない。ソロバンが合わずにこの膠着状態が数か月から半年続けば撤退もありうる。」と述べました。実に明快に、ロジカルな交渉について期限を設けて述べました。戦い上手です。相手の脅しにビビりません。ダメならNoと宣言しました。こういう交渉過程までオープンにするのはややもすると閉鎖的に見られる日本企業としては珍しいことで、富士フイルムHDの株主、社員、関係者にとても良いことです。

今回の買収が頓挫しているのは、米ゼロックスの、モノ言う株主主導による買収契約破棄でその目的は、いかに株主の取り分を増やすかです。もし本当に富士フイルムが買収撤退するとなると一番困るのは、米ゼロックスのモノ言う株主でしょう。買収先としてファンドに声をかけていますが、ファンドが買ってもそのファンドはまた、富士フイルムに売りにくるでしょう。同じことです。これから、双方で激しい交渉が続くでしょう。古森会長が場合によっては引くという選択枝を表明したのは相手にとっては脅威です。そして古森会長の表情からは冷静に引くこともあるぞという決意を感じました。

私は本件について、391、393、417、422号で書いてきましたが、この買収は戦略的な判断は正しく、その手法も富士フイルムにとっては効率的、効果的ですし、暗礁に乗り上げてからも、会長、社長とも冷静に状況判断して的確な対応をしてきました。買収撤退案は私も頓挫の最初からありだと思っていました。ですから、撤退して元に戻ってマネジメントを続ければ良いだけの話です。

しかしひとつだけ撤退すると富士フイルムに困ったことが起きます。それは今回の買収によって、1万人のリストラが発表され、その作業が進んでいる富士ゼロックス社員のモチベーションです。知人のゼロックス幹部社員からの話では、今回の買収は大きな戦略論では正しいと優秀な富士ゼロックスの社員は思っているようです。しかし社員のモチベーションの低下は避けられず、優秀な社員から辞める人がいるようです。まあこれはM&Aとリストラの過程では当然起こることで想定内なのですが、半年後に買収撤退が正式に決まると、その時の富士ゼロックスは昔のそれとは違っています。そんなことは優秀な富士フイルムマネジメントはわかっていますし、米ゼロックス経営陣もそれは承知の上で、富士ゼロックスから情報をとっているでしょう。だから簡単に富士フイルムも撤退はできないと米ゼロックスも踏んでいます。双方の難しい交渉がこれから、いや既に始まっています。
それでは、チュース!!

393.冨士フイルムのゼロックス買収の勝者はゼロックス経営陣ではないか?

ブログ391.で今回の買収で冨士フイルムの野望実現ということ書きました。確かにゼロックスを支配することは長年の古森会長の熱い想いだったと思います。しかしこの買収は富士フイルムにとって、ビジネス上の本当に成功かというと、古森会長の得意満面の顔と「ゲームチェンジだ」との強気の発言とは裏腹に疑問が残ります。経営、戦略で最も大事なのは、企業立地で、時代の流れに乗ることです、漁師がどこに網をかけるかに似ています。ゼロックスの1970年台、1980年台は複写機の他にコンピュータでもアップルや、マイクロソフトよりも先端を行っていました。まさに世界をリードしていた会社です。しかしコンピュータの小型化戦略で敗れ、複写機、事務機に戻らざるを得なくなってから、凋落が始まりました。複写機の市場はデジタル化で縮小、競合も多数でてきました。そこで、2000年に富士ゼロックスの持ち分の50%のうち25%を冨士フイルムに譲渡、そして今回、冨士フイルムにゼロックス本体を売却(50.1%の株式)、支配権を譲りました。ここ数年、ゼロックス本体の業績は悪化し続け、マネジメントは窮地に陥っていました。自分たちのボーナス、給与も保証できなくなってきました。そこで考えたのが、ゼロックスの冨士フイルムへの売却です。これで、ゼロックスマネジメントは豊富な買収資金を手にし、子会社になった好調な冨士ゼロックスからの配当も当面入ります。この売却ビジネスプロセス成功により、ゼロックスマネジメント上層部は、多額なボーナス、桁外れの退職金を手にして辞めていくでしょう。自分たちの面子もたち、実も取る実に見事な戦略の結果です。今回の勝者は彼らだと思います。

このあと起こることは、ゼロックスの優秀な技術者たちの退職です。彼らも十分なボーナスと、退職金を手にします。少し時代遅れでも複写機の技術は残るでしょうが、優秀なエンジニアは去りますので、あらたな開発、進化はできないでしょう。そうなると、子会社になった富士ゼロックスから、大量のエンジニアを本体に派遣、開発を続けなければなりません。これは富士ゼロックスにとっては相当な負担です。冨士ゼロックスは従業員の2割、1万人のリストラも行われますから、当然士気も落ち、優秀なエンジニア、社員も流出します。これは、かなりの危機的な状況です。この中一番たいへんで、苦労するのは、この買収成功の使命を受けて日本からゼロックス本体に送り込まれる、富士フイルムの役員、社員であることは間違いありません。

言う事を聞かない、残ったゼロックスのマネジメント陣をコントロールするのは至難の業です。今までの冨士フイルムにはなかった経験です。しかし古森会長からは、この買収は絶対に失敗は許されないという厳命が派遣される日本人には課せられますから、板挟まってしまいます。まさに試練の日々が続くことが予想されます。

実は、冨士フイルムは今から、30年前に全く同じような買収をしました。これには私も深く関与したので良く知っていますが、印刷関連で当時、最先端の画像処理機器を持った英国のクロスフィールド社の買収です。当時、材料しか持っていなかった冨士フイルムは、同じ材料会社の米国Dupont社と高額を出し合って買収しました。冨士から見たら絶世の美女で、声もかけることもできないためらう相手でした。しかし大喜びで買収してみると、持っている技術は既に時代遅れで、その後印刷業界の主流になったDTPには使えないものでした。社内体制もボロボロ状態、そしてわがままでプライドの高い英国人のマネジメントは、日本人には不可能で、不満を抱いた英国人マネジメントは高額の退職金を手に次、次と辞めていき、技術者も続々やめていきました。その後Dupontの持ち分株式を買い取った冨士は大量のエンジニアを日本から送り込みました。結局は再興することができず、10数年前に持ち出しでマネジメントバイアウトを行い決着をつけました。大きな授業料を支払いました。今回の買収は、その時のことが、デジャブのように思い起こされました。

もちろん、これは私のネガティブな推測で、冨士のマネジメントはそれらは織り込み済みでの決断だったと思います。前回のブログでも書きましたが、ロジカルには正しい判断だったでしょうが、これをプラン通り実行するのは、本当に大変な仕事です。私の冨士フイルムの後輩にあたる誰かが、この重責を負うのでしょうが、覚悟を決めてやるか、できなければ最初から逃げ出したほうがいいでしょう。それほど困難な仕事だと思います。

それでは、チュース!!

391.富士フイルムの野望実現と富士ゼロックス社員の嘆き

昨日、富士フイルムホールディングが米ゼロックスを買収(株式50.1%取得)、現在子会社になっている富士ゼロックスを米ゼロックスの100%子会社にして経営統合すると、いう発表をしました。今年7~9月にはそのプロセスを完了するそうです。目的は、世界のコピー機需要減への対応で、言いかえれば統合による重複機能のリストラ、富士ゼロックスは2020年までに国内外で1万人、従業員の2割を削減するそうです。経営難に陥っていた米ゼロックスは歓迎し、アジア、オセアニアに販売限定されていた富士ゼロックスが米ゼロックスとの統合によりグローバルで効率的な営業展開ができるメリットは富士フイルムホールディングにあります。古森会長は「極めて価値創造的な統合」と意気込んでいます。コピー市場は縮小が続き、世界規模でのな改革はマクロ的に見て正しい判断です。

この統合の伏線は、昨年6月に起きた、富士ゼロックスの海外現法不祥事をきっかけに、富士フイルムホールディングが経営陣を富士ゼロックスに送り込み、実質的な富士ゼロックスのガバナンスを取ったことにあります。(ブログ、326.富士フイルムと富士ゼロックスの微妙な関係)これにより今回の両社の統合が可能になりました。そしてこれは、56年前に米ゼロックスからの支援で複写機事業を始めた富士フイルムと米ゼロックスの立場を完全に逆転させた象徴的なできごとです。富士フイルムにとってこれは長年の夢でした。これにより、売上規模2.1兆円の世界最大規模の複写機、事務機、デジタルプリンティングの事業を傘下にできたのです。古森会長が実行した、銀塩フイルムからの脱却、新しい事業ドメイン創出に加えて、新しい輝かしい成果が加わりました。昔から自分は強運だと豪語していましたが、まさにその通りです。

しかし、視点を富士ゼロックス社員に移すとそこは暗澹たる気持ちの人で充満しています。2000年までは、富士フイルムと富士ゼロックスは同列でした。2000年以降冨士フイルムホールディングの子会社にはなりましたが、まだ1段下です。2000年以降も冨士ゼロックスのビジネスは堅調で、銀塩フイルムがなくなったあと、化粧品や医薬品がメディアでは脚光をあびていますが。冨士フイルムホールディングの利益を支えていたのは冨士ゼロックスでした。そこに冨士ゼロックス社員の誇りがあり、経営陣は昔のゼロックス人材で冨士フイルムから送り込まれた人は実権がとれないまま去っていきました。環境が激変したのは、先程言った富士ゼロックスの海外子会社の不祥事でこれによりガバナンスを冨士フイルムが取りました。そして今回の統合なりました。これは富士フイルムから見て2段下です。完全に差をつけられました。富士ゼロックス社員からすれば、自分たちはずっと真面目に日本、アジアでビジネスを続け業績を出し続け、冨士フイルムにも長い間貢献してきた。何も悪いことはしていない。それなのになんで今回の米ゼロックスとの統合で1万人もリストラされなくてはいけないのか、理不尽、不条理ではないかと表にはだしませんが、内心、強く思っています。しかしこれはマクロ的な経営判断ですから、粛々と進んでいきます。これが現実ビジネスのドライな世界です。海外不祥事さえなければと、冨士ゼロックス社員は思ってもしょうがないのです。その時、このシナリオは冨士フイルムの中に出来上がっていたと思います。冨士フイルムにとってはあの事件が冨士ゼロックスのガバナンスを取れるチャンスだったのです。

私は、米・冨士ゼロックス統合の課題は、次のようなものだと思います。

1.冨士ゼロックスのリストラ、これは古森会長が信頼するリストラのプロが富士ゼロックスに送りこまれていますから、問題なく進むでしょう。富士ゼロックス社員に不満はあっても従うしかありません。多少の軋轢は生まれますがいずれ解消するでしょう。富士ゼロックスは親会社が米ゼロックスになったほうが、従来の親密な関係性が発揮され、富士フイルム直接よりは仕事はやりやすくなるかもしれません。

2.米ゼロックスのガバナンス、米ゼロックスのキーポジション、もしくはトップには古森会長の秘蔵っ子の若手役員が送り込まれるでしょう。しかし冨士フイルムにとってもこれほど、大きな企業買収、それも癖のあるアメリカトップ企業のマネジメントは初めてです。ソニーをはじめ多くの名だたる日本企業がアメリカ企業のガバナンスに失敗しています。冨士フイルム・古森会長流の超トップダウンが通用するか、これが最大の課題だと思います。彼らは買収された側は面従腹背です。知らないうちにかってにやります。古森会長は対話、会話は十分できますが、マネジメントではあえてしません。圧倒的なパワーでガバナンスをする流儀です。それで今まで成功してきました。今回も通用するか、どうかが正念場です。日本企業はアメリカ企業のM&Aはできますが、マネジメントは苦手なのです。しかも過半数をわずかに上回る株式では、富士フイルムのやりたい重要戦略、施策がすんなり、米ゼロックス幹部、物言う大株主に通るとは思われません。

3.縮小する複写機、事務機、プリンター市場に今までにない、新技術、新製品、をタイムリーに導入、成功できるかです。冨士フイルム、冨士ゼロックス、米ゼロックスは固有の先端技術を持っていますが、これが統合され、シナジーを発揮して世界が驚く新製品を出し続けていけるかです。それがなければ、尻つぼみの縮小市場の巨大な負け犬になってしまいます。

古森会長はよくわからない、説明のできない強力なパワー、オーラと強運を持った、類まれな人です。きっとこの賭けも成功すると踏んで乗り出していったのです。彼は論理的な、理詰めで判断するのではなく、勘で意志決定する人です。ですから今回の結論も大丈夫だと思います。私の勘ですが。

それでは、チュース!!

326.富士フイルムと富士ゼロックスの微妙な関係

先日、富士フイルムホールディングが、富士ゼロックスの海外子会社(ニュージーランド、オーストラリア)の数年の不正経理よる粉飾、375億円を発表、社長の助野氏が記者会見で深く謝罪していました。助野さんは私の富士フイルム入社同期で、時々会って話すこともあるのですが、いつもの明るさと軽妙さは消え、同じ人かなと思うくらい重く暗い対応でした。やはり大会社の社長は重責です。よりすぐりに選ばれた人しか大会社の社長はできません。助野社長の説明によれば、「富士ゼロックスは長年富士フイルムHDに利益貢献をしてくれていたため、自主性を尊重細かい指示は出していなかった。今後は富士フイルムHDが直接富士ゼロックスのガバナンス強化を図っていく」とのことでした。

富士ゼロックスは2001年以降は富士フイルムホールディングの75%の子会社ですが、それ以前は1962年の創設以来、富士フイルムと英国ランクゼロックスの50%づつの対等持ち分で、技術力を持つランクゼロックスの方との関係のほうが強かったです。そもそも設立の経緯は、電子複写部門を富士フイルムの一事業部にする案もあったのですが、当時、中興の祖と言われた実力社長小林節夫氏が、富士フイルムに入社していたご子息の小林陽太郎氏と腹心の部下で富士ゼロックスを設立しました。ですから小林陽太郎氏は35才で役員、45才で社長という異例の出世をし、かつ実績を上げ、富士ゼロックス社長の他にも経済同友会の代表として長年財界の顔にもなりました。アメリカのウォートンMBA出身で個性尊重、自由闊達な小林陽太郎氏が作るおおらかな社風と、財界嫌いで鉄の規律を尊重する当時の富士フイルムの大西会長の相性が良いわけがなく、50%の親会社に対する利益分与以外は全く関係がありませんでした。その関係の薄さは、子会社になった今でも続いており、陰では緑(富士フイルム)、赤(富士ゼロックス)と言って中傷しあいます。2001年の連結子会社以降、富士フイルムから大勢の役員、幹部社員が両社の融和というか、富士フイルム化のために送りこまれましたが、富士ゼロックスの富士フイルム敵視は続き、彼らは早々に仕事をさせてもらえずに帰還か退職しています。私の先輩、友人にも多数います。なぜ子会社なのに富士ゼロックスはガードが堅く、富士フイルムに対して排他的にやっていけたのかというと、実は今や伝説になっている富士フイルム第2の創業が背景にあります。2000年以前は、富士フイルムの利益率は15%、富士ゼロックスは8%くらいで、高収益の富士フイルムは富士ゼロックスを見下していました。しかし2000年以降、富士フイルムの銀塩フイルムの凋落により、メインの感材、メディカル、印刷の利益は大幅に収益悪化、イーブン近くにまで落ち込みました。化粧品、医薬品によるドメインの大変革もメディア受けは良いですが、大きな収益貢献までにはいたっていません。そこで大きく貢献したのは富士ゼロックスで1兆円の売り上げ、800億円の利益の75%を親会社に貢献しています。窮地に陥った富士フイルムHDの屋台骨を支えたのは富士ゼロックスだったのです。従来からの富士フイルムへの排他性に加えて、富士フイルムHDを支えているのは自分たちだと言う自負から、より富士フイルムの干渉を拒むようになり、自立性が強くなったのだと思います。

それから今回の事件は、英国系のニュージーランド、オーストラリアで起きました。富士ゼロックスの商圏は、アジアとオセアニアに限定されています。アジアの現法は日本人社長を置きガバナンスはできるのですが、欧米系、特に英国は表面はフレンドリーですが、内心は日本、日本人を馬鹿にしている人が多く、自分たちのことに干渉されることを極端に嫌がります。富士ゼロックスは英国系の会社のマネジメントに慣れていなかったのではないかと推測します。富士ゼロックス本社はこの不正経理に早くから気づいていたと思います。しかし、親会社に知れれば当然親会社からの干渉が強くなるため、なんとか自分たちだけで処理しようとして後手後手に回ったのでしょう。今回の事件はこのような、歴史的背景から生まれたものだと思います。

いづれにしろ、富士フイルムHDの古森会長の決断は早かったです。5人の富士ゼロックスの役員解任と、富士フイルムHD,富士フイルムから7人の役員が富士ゼロックスに入ります。古森さんも会長として富士ゼロックスに君臨、ガバナンスを効かせます。また富士フイルムのリストラを厳粛、着実に実行するため外部から富士フイルムに招聘された名物役員も富士ゼロックスに派遣されます。富士フイルムHDからすれば長年やりかった、富士ゼロックスの直接ガバナンスができることになりました。しかし今回の不祥事は、遠いオセアニアの国で起きたことであり、日本で働く多くの善良な富士ゼロックス社員には関係ないことでした。しかし自由な富士ゼロックスの社風は富士フイルム風に変わっていくことでしょう。これも世の中の流れ、環境変化への適応ということなのでしょうか。

それでは、チュース!!