カテゴリー別アーカイブ: 海外ビジネス

253.ビジネスでお客との関係は、主従かパートナーか

私が富士フイルムで海外駐在している頃、私の担当していたビジネスの国際展示会が、ドイツや英国でよくありました。この会場で見る、サプライヤーの日本人社員と日本のお客の関係、同じ立場の欧米代理店と欧米の客の関係は一見してわかるほど大きく違っていました。

日本人:サプライヤーは、ネコ背、体の前で手をかさね、揉み手で、下からお客を上目使いで見て首を上下に頻繁に振って話しています。お客は胸はって、ふんぞりかえり、首をかしげて、ポケットに手を突っ込んで、無表情で横柄に聞いています。

欧米人:腕を前で組んでるいのがサプライヤーかお客かはわからない。時には両方とも手を前で組んでいる。どちらも背筋を伸ばして堂々と相手の目を見て話しています。

この違いは、日本は主従関係、上下の区別が、サプライヤーと客ではっきりしているからです。よくいう、少なくとも公の場では、お客様は神様ですに基づく現象です。欧州は、どちらも自分のビジネスを助けてくれる、パートナーの協業関係がベースであり、上下という差は少ないと思います。

日本の場合は、会社のビジネスで、サプライヤー、から今度はお客の立場に変わると、全く逆の立場で突然上から目線で威張りだすことが普通です。自分がサプライヤーとして従だったのときの態度、姿勢を今度は、自分のサプライヤーやお店に要求します。180度態度が変わります。

この違いが生まれるのは、日本は儒教道徳の上下を重んじる影響なのでしょうか。欧米の場合、サプライヤーと客の立場が変わってもそんなにというか、ほとんど変わらないのはキリスト教の相互互助精神から来るものなのでしょうか。よくはわかりませんが、とにかくその場にいると違いが大きすぎて不思議です。

大学の厳しい体育会組織では1年、虫けら(ありんこ食えと上から言われれば食べないといけない)2年、平民 3年、貴族 4年、王様(天皇だったかも)と言われるくらい扱われかたに大きな差がいまだにあるようです。しかし3年経てば立場が全く逆転するから1年生は我慢でき、今威張っている王様も3年前は虫けらの扱いをうけていたのです。

よく言われる、日本の嫁と姑の関係も、意地悪な今の姑も、嫁の時はその時の姑にいびられていたのです。何か、権力を取ると以前のいじめられた経験、うらみを倍返しにして今の弱い立場の人をいじめるのが、日本の伝統のような気がして少し悲しい、暗い気持ちになります。

私はもちろん、欧米スタイルが好きで、海外で、日本の客にも欧米の客と同様に対応しました。丁寧な対応ですが、言いたいことは言ってしまい、ほぼ対等な態度で口を聞いていました。親しい日本の客はOKでしたが、周囲で見ていた日本人の同僚、先輩、上司は許してくれず、徹底的に批判、ご指導を受けました。私の言動は、一般的日本人には礼儀を欠いたなれなれしい、不謹慎に見えるようです。いたしかたありません。

私の場合、客の立場にたっても、馬鹿丁寧にされるのは、かえって姑息な魂胆の裏がみえてきらいです。日本でも、もっと普通のふるまいで大丈夫な世界に早くなって欲しいと思っています。過度のおもてなしは全く不要だと思います。普通で良いのです。

それでは、チュース

223.英国のEU脱退の後は、スコットランドが独立、EUに加盟する

先週の英国国民投票の結果、英国のEU脱退が決定しました。移民問題、労働市場の国民反発が主要因と言われていますが、経済的な英国への影響は大きく、英国は1980年代のように元気はなくなると思いますが、これは民主的な選挙で決定したことであり政治的には、抜群の対応力を有する国ですから、それなりにうまく対応していくのだろうと思います。ノルウェー、スイス、アイスランドもEUには入っていませんが、それらと英国ではその位置づけが違いすぎます。

私は欧州に10年いましたが、英国人は自分たちを他の大陸欧州とは一線を画する選民だという意識は強く持っていると感じました。大英帝国として世界を制覇したのは欧州では英国だけですし、その時の富で地方隅々まで社会資本は充実しています。英語は世界の共用言語でそれを話すのは常識だと思っている人は多数います。ロンドン駐在の時、同僚の英国人は大陸欧州に出張の時は、ヨーロッパに行ってくると言っていました。しかし大陸欧州同士が仲が良いわけではけっしてなく、陸続きの中で2000年以上けんかをしていますので、足をけり合いながら握手することは平気でできます。仲は悪いのですが共通の外敵には、共通の利害になるのでまとまるのです。しかしドーバー海峡を挟むとそれは違うのだということが今回よくわかりました。ロンドンの対独戦争資料館は、かなり誇張して英国人の愛国心、優越感をあおりますし、以前ドイツとのサッカーの国際大会で、英国が6:1で勝利した時は、そのスコアボードをプリントしたTシャツが町中で売られその異常さに違和感を感じたことを思い出しました。

英国EU脱退は済んだことですが、これからもっと大きな事が起きると思います。スコットランドの英国からの独立運動です。数年前のスコットランドでの住民投票では否決されましたが、これが再燃します。今回のEU脱退で、残留指示票が多かったのは、ロンドン市内、スコットランド、北アイルランドです。英国という国は、大ブリテン島(イングランド、スコットランド、ウェールズ)と北アイルランドの連合国家です。日本から見たら英国(イギリス)はひとつの国ですが、彼らは、別々の国と言う意識です。インターナショナルという言葉はこの4ヶ国の事がオリジナルです。サッカーもラグビーもこの4ヶ国から始まったので、ワールドカップで別々の国として出てくるのです。それでもイングランドの属国のようなウェールズと宗教問題が根っこでくすぶる北アイルランドはイングランドに逆らいませんが、スコットランドは歴史の中で長い間、イングランドと戦ってきました。スコットランドはイングランドとの連合王国より、スコットランドとして独立してEUの一員になる方を望む人が多いと思います。イングランド抜きでEUに加盟したいのです。もちろんエリザベス女王の夫はスコットランドのエジンバラ公だったり、ロンドン警視庁をスコットランドと呼んで融和施策をたくさんしていますが、基本的にはイングランドはスコットランドより上位にあり、上から見下ろしているというスタンスです。イングランド銀行の紙幣はスコットランドで使えますが、その逆は不可です。スコットランドにある北海油田の権益は全部イングランドの会社に搾取されているとスコットランドは強く思っています。

2002年の東京サッカーワールドカップでイングランドとアルゼンチンとの試合、私がいたイングランドの会社の食堂を解放してその実況を見たのですが、その入り口に大きな張り紙で、「スコットランド人入るべからず」と書いてありました。冗談だろうと思っていたのですが、まじめな張り紙でした。イングランド人に言わせると、スコットランド人は真からイングランドの敵チームを応援するので、本当のケンカになってしまうのだそうです。スコットランド人はたぶん、今が独立、EU加盟のチャンスだと動きだします。スコットランドがEUに加盟すれば、今ロンドンにある多くの金融、保険を始めとするグローバル企業は拠点をロンドンから、グラスゴーかエジンバラに移転する会社も増えてくると判断するでしょう。雇用も増えますし、今までイングランドに取られていた権益も取り戻せると思うでしょう。ひょっとしたら、千載一隅の好機と捉えていると思います。空想ではないと思います。

ロンドンに多くの拠点を持つ日本の企業も英国EU離脱に伴い、自社の今後の体制、戦略について見直しを考えていると思いますが、英国のEU離脱だけでなく、その先に起る変化も予測して対応していくべきでしょう。先週ある会社の幹部と話している時に「この英国のEU離脱は、御社にどう影響が出ますか」と聞きましたところ、「うちは、輸入が多いので、円高に振れるとメリット大きいです」と言っておられました。しかし影響はこれだけではないはずです。英国の経済停滞の予測で、ポンドが売られて、ユーロやドルが買われるのは当然ですが、遠く離れた円が買われるのはおかしいです。たぶん投機筋が、経済危機にはなんでも円を買えば儲かるという心理が働いているのでしょう。リーマンの時もそうでしたが、アメリカの会社の破綻の話なのに、超円高になり、株価低迷、輸出不振、日本経済の投資、消費減退で一気に不況になりました。今度も最悪はそうなる可能性もあります。一度失敗していますから、賢い日本の指導者は同じ過ちはしないと思いますが、不安は残ります。

英国の国民投票の結果までコントロールすることは日本人はできませんが、将来起きることの予測をして、そこから派生して起きることへリスク対応もそこそこはやっておくべきだと思います。もちろんリスク対応にはキリがありませんせんからほどほで良いですが、出たとこ勝負だけでは困ります。

それでは、チュース

212.会社の会議は、英語にすると良い

英語が母国語以外の国でビジネス会議を行う場合、一人でも外国人が入れば、その国の言葉が離せない限り、すぐにその国の言葉からビジネス公用語の英語にスイッチしてくれます。これはひとつのビジネスルールです。北欧やビジネス機会が多い独、仏の人は英語になれていますが、スペイン、ポルトガル、東欧、ロシアなど、あまり英語が得意でない国でも英語できちんと話してくれます。もちろんうまくはありませんが、一生懸命意志疎通を図ろうとしてくれます。

このルール、日本でも適用したらどうでしょうか、いや日本語を話せない外国人がいなくても、たまには英語で会議をしたら良いと思います。日本人は大学までいけば通算で10年くらいは英語を勉強しています。学校だけなく、英会話スクールにもたくさんの学生は通っています。しかし、欧米はもとより、アジア、中近東、アフリカのビジネスマンより会話による英語力は全体としては劣っています。TOEICの点数も大事ですが、何より実践で英語でもコミュニケーションをする、議論を戦わせるとなると、かなり低いレベルになってしまいます。

私は、その理由の一番は、話す量が圧倒的に少ないことだと思います。英語は質よりも量です。BBCやCNNの英語ニュースを聞かれる方はわかると思いますが、アジア、中近東、アフリカの人たちの英語はうまい人もいますが、ほとんどがブロークンでロジックも
かなりあやふやです。しかし堂々胸を張って話、止まったり、休んだりすることなくしゃべり続けます。私の妻が、ドイツでローカルのドイツ語学校に通っていた時、当時はベルリンの壁崩壊の後で、東欧から大勢の難民も含めた人たちが西ドイツ側になだれ込んできていました。その人たちと一緒のクラスでドイツ語の先生が妻にいつも言っていたことは、止まらないで話し続けなさい、それも10分も15分もです。東欧から来た人は、生活がかかってハングリーさも違いますが、間違っても、話す内容がなくなっても話し続けるのだそうです。これはドイツ語の話ですが英語とて同じです。

では、なぜ日本人は少ない量しか話せないのか、それは正しい英語、間違わない英語を話そうとしすぎるからです。ですから間違っていると感じるとすぐに止まってしまうのです。何を伝えたいかよりも、その道具である英語の誤りの方に関心が向いてしまうのです。特にその場に日本人が複数以上いる場合はなおのことです。話す中味より、あの人の英語はうまい、へた、ペラペラ、片こと、という品評会のほうが断然気になってしまうのです。日本人は正しい事をいつも追求していますから、英語まで高品質の追求になってしまっています。英語を習うことはもう十分ですから、使ってみること、英語を話すことにとにかく慣れることです。正しいことにのみ価値があるという日本の文化は素晴らしいのですが、語学習得にはこれは逆効果です。

日本人が英語で行う会議には、ルールが必要です。
1.英語のまちがいで上げ足を取らないこと
2.伝えたいことを、わかりやすく伝えること、聞き手もそれを心も使って聴くこと
3.量をたくさん話した人を評価すること  です。

英語で会議すると、実は別の大きなメリットもあります。英語には丁寧な言い方はありますが、基本的に敬語はありませんので、フラットな関係で話ができます。日本人特有の会議では上下関係をまず意識して、正しい敬語を話さなければならないという、会議の本質以外のところにエネルギーを使わなくて良いので、会議それ自体に集中できます。これは英語に慣れる、外人とコミュニケーションを取るという英語会議のメリットに隠れた大きな利点だと思います。

それでは、チュース

203.海外単身ビジネスマンの楽しみ方

日本の会社の場合、社員の子供が中学、高校に通っている時に海外駐在の辞令をもらうと、父親だけで、赴任するケースが圧倒的に多いです。子供の教育が一番重要と夫婦が認識していますし、夫婦より親子の絆のほうが強いのかもしれません。親の介護もあるかもしれません。欧米の夫婦だとまず単身赴任はありません。というか、3週間海外出張しただけで、離婚になったケースも見ました。欧米では夫婦はとにかく一緒に暮らすもののようです。でも日本は違います。不幸にして(場合によっては幸運にして)ひとり暮らしをしなければならなくなった時でも、元気に楽しく生きていかねばなりません。私もロンドンで3年間単身経験があります。仕事をしている時はオフィスの中ですからどこでも同じですが、アフター5は暮らす町によってかなり異なります。私がいたデュッセルドルフやロンドン、またニューヨーク、東南アジアのバンコク、シンガポールは日本レストラン、居酒屋、カラオケなどがどこにもあり、値段さえ気にしなければ、ほぼ日本と同じような生活ができます。しかし油断すると居酒屋でも軽く1万円超しますからご注意を。加えて英語でのエンターテインメント豊富な町なら、一人暮らしで時間は自由になりますから実に快適に暮らせるでしょう。そのような大きな町の駐在なら日本人の同僚もたくさんいますからゴルフの好きな人なら週末はそれも楽しめます。美術館や植物園、史跡めぐりもできます。このような町に駐在できた人は独身でも本当にラッキーで単身生活をエンジョイすることができるでしょう。

問題なのは、アメリカでもヨーロッパでも、アジアでも文化の香りがすくないというか、かなりの田舎町に一人で赴任するときです。仕事は忙しく楽しくできます。現地の言葉しか話さないのでそこの国の言葉のプロになります。また現地のスタッフと実に仲良くなれます。
たくましく、したたかな人間に生まれ変われます。大きなメリットはあります。しかし会社が終わったあとのプライベートは退屈してしまします。そんなときに‘うつ’になったら大変です。そのためには、是非自分が心から好きな実用的な趣味を作っておくことです。それがあれば一人暮らしも十分楽しいです。できれば3つくらいあるといいです。たとえば

1. 自炊料理:田舎町だとレストランもあんまりおいしくありません。自分の手料理が最高です。しかも日本レストランはかなり車で飛ばさないとありません。
2. 読書、映画DVD:日本だと忙しくて読めない本や、映画にどっぷりつかれます。
3. 小旅行:近くの町の探索にでかけて、そこの自然、文化、でもなんといってもそこに住む人とふれあうのは最高に楽しいです。
4. スポーツ:テニス、ゴルフ、スキー、野球、ハイキングなんでも自分の好きなものを現地に人の中に入って楽しみましょう。
5. 楽器、歌:これも現地のサークルに入りましょう。
6.醸造所巡り:ワイン、ウイスキー、ビール、飲むのも楽しいけれど、見たり、作っている人と話せるととても豊かな気分になります。
7.土地の名物鑑賞:ロンドン、ニューヨークならミュージカル、演劇、それぞれの土地の民族音楽・舞踊、アジアにはおもしろいのがたくさんあります。

以上は、私の駐在の時の楽しみでした。自分の好きなもの、夢中になれるものならなんでもいいのです。

それでは、チュース

201.地に足がついたグローバルビジネスマン

USA滞在中に、日本の会社がM&Aしたアメリカの会社で社長をしている旧知の友人に会いました。今伸び盛りの半導体関連の会社でアメリカの西と東に拠点があり、そこを毎週行き来しています。というより世界中を飛び回っているようです。アメリカの東と西では時差が3時間もあり、直行便がないところなので国内といえども経由便だ7~8時間かかり、日本と東南アジアを往復しているような感じのようです。その会社が伸びているひとつの理由として彼が言うには、そのビジネスの主なマーケットは日本人のよくわからない海外であり、開発、製造拠点も海外なので自分たち日本人には詳細まで市場、その会社のことはわからない、だから自分は彼らが自由に活躍できる環境を作ることだと言っていました。彼の英語はネイティブと変わらないくらい発音もロジックもしっかりしているのは強みですが、その上で彼が具体的にしていることは、
1.日本本社の大きなビジョン、枠組みのなかで、その会社の位置づけ、ミッション、ビジョンを明確にして、現地マネジメントと十分に対話していること。
2.現地マネジメントに対して、きちんとフィードバックしていること。だからNoの時はNoとはっきり言うそうです。
3.公平な基準をベースに、現地マネジメント、スタッフをフェアに評価してること。
4.きちんとした、本社情報を現地に流すこと。また現地情報も本社に適確に正直に流しているそうです。
上記を行うために、現地マネジメント、スタッとのコミュニケーションの量、質とも良く考えて実施しているようです。もちろん人間関係に日本の会社のような湿り気はなく、仕事中心でドライに進めていくようです。彼らに自由にやらせてはいますが、勝手すぎることはさせていないそうです。現地マネジメントに理解は示すものの、けっしてなめられてはおらず、話のわかる実行力のあるトップということで一目おかれ、困り事の相談も多いそうです。なぜこのようなマネジメントは彼ができるかというと、
1.数字の異常値には、すぐ気がつくセンスがある。
2.ローカルで起きている異常を敏感に感じる、人への関心の強さ、持って生まれた
  嗅覚がある。
3.海外での修羅場での経験、体験が豊富で、失敗と成功を数多く経験している。
4.仕事への使命感、責任感の強さ。
を持っているからです。以前ブログ133で私が述べた、遠心力と求心力を上手にコントロールするブリッジパーソンを具現化している人です。彼のような若いビジネスマンこそが、日本市場がシュリンクし海外に生きる道を本気で探さなければならない日本の会社の救世主だと思います。彼のような日本人がどんどん増え、海外から日本に戻って真の海外ビジネス経験を積んだ経営トップとして本社のマネジメントをしてくれると日本はまた元気を取り戻すと思います。しかしこのような人材は海外で勝つために他流試合、武者修行、真剣勝負をたくさんしてくるために日本人としては、少し尖って乱暴に見えがちです。日本のトップマネジメントは、広い視野、高い視座、大きな心で彼のような人材を受け入れ活用してもらいたいと心底思います。

それでは、チュース

186.グローバルビジネスでは無用、建前と本音

先日ある会社の海外ナショナルスタッフの研修で、日本の文化、歴史、社会概念を説明した時、今考えれば避ければ良かったのですが、「建前と本音」という概念が日本社会にはあり、両者をうまく使い分けなければならないと説明したところ、参加メンバーから猛烈な反撃を受けました。インド人数人がその中心でしたが、「ビジネスは事実をきちんと捉えて、ロジックによって組み立て、実行していくものである。だから建前と本音という2重構造はありえない。それは意志決定は混乱させるだけ、効率を目指す日本の経営にそんなものがあるわけがない、でも日本の意志決定プロセスが欧米系に比べて時間がかかるのは、そのせいなのか」と議論が沸騰してしまいました。

やむを得ず、その歴史的背景、理由を自分なりの言葉で、しどろもどろになりながら説明しました。建前と本音は、会社の中で自分自身もうまく使えなくて実に苦手な分野です。そして次のように説明しました。「オフィシャルな理由(建前)と現実のプライベートな意図、思い(本音が)異なり、対立することを表現する対の言葉のこと。日本は儒教の影響を受ける伝統的な慣習が社会、会社にまだあり、集団の目標、団結を最優先するために、個人の感情、欲求を極力抑え、コントロールしなければならないことがある。そこで、そのような言葉が生まれた。会社で使う時には、会社の目標、課題としてはやらなければならないことはわかっているが、個々の社員の本当の気持ちはやりたくないか、別のやりかたをしたい時に使う」当然これには、外国人メンバーは納得しません。「それではパワーがでないではないか。何故その両者のコンセンサスを取り、ヤル気になるまでの説明、説得、対話をしないのか、それはおかしいではないか」ということになります。最後はこれは、良い悪いではなく、日本文化にそういうものがあるのだと言うことを認識して欲しいと説明しましたが。それでも納得しません。

窮地に陥った時に、京都の「ぶぶ漬け」の話を思いつき寓話として話しました。京都では、長居している客を帰らせたい時に、「ぶぶ漬け(お茶漬け)いかがですか?」と問いかけ、婉曲に帰りを促す技があります。これを言われた客はどんなに客が待ってもぶぶ漬けが出てくることはないです。これを真に受けておとなしくまっている輩は、「無粋な人だ」とバカにされてしまうという話です。

完全にはわかってもらえませんでしたが、外国人が憧れる京都という場所が良かったのか、それが日本の文化、伝統にあるのだと言うことは理解してもらいました。

しかしながら、私も常日頃から、思っているのですが、ビジネス、特にグローバル展開するビジネスに、「本音と建前」は無用、無駄です。

それでは、チュース

159.日本企業の海外人材ガラパゴス化 その2 何故下積みはある

前号で上げました、新人外国人からの不満「下積み期間はなんであるの?大学で高度な専門教育を受けて来たのに、何故、専門と関係のない単純作業や、販売業務をしばらくやらなければならないのか。意味不明である。」についてその理由を私なりに考えて見ました。

日本の会社の場合、特に製造業では新人に、自部門のサポート業務、他部門のオペレーショナルな仕事をさせることはよくあります。技術系採用の新人に店頭で営業応援を体験させることは普通に行われ、日本人新人は何の疑いも持たずに楽しそうにやっています。

しかしなぜ欧米から入社した新人からは、それらに不満が出るのかの理由を推察してみると、

①仕事の仕方が違います。
欧米では、個人の専門スキル(職種)中心で、スキル(職種)をアピールして会社に入ります。新人一括採用は少なく、入ってから職種が変わることはありません。職種の集合が会社と考えます。その職種とは、たとえばエンジニア、開発者、セールス、マーケティング、ファイナンシング、人事 等々です。

日本では、チーム活動中心で大きな会社、新人は定期一括採用で若い時に会社の色に染めていきます。専門スキルは尊重されますが、違う職種につくこともあります。職種の変更は、特に事務系では煩雑に起きます。というより事務系では明確な専門スキルを持って入社する人はあまりいません。入手後に事務系から技術系への異動はあまりありませんが、その逆はしょっちゅう起ります。個人スキル+チーム活動なので、チーム活動を上手にやるには、他部門の仕事を知る、生産ラインの仕事を知る、サポート業務を知る、ことも大切と考えます。ですから、新人にある期間そういう業務に従事させることは多くあります。加えて他部門、他業務の人を知ることにより、そこの人との関係性はよくなり、全社、部門内のチーム活動はしやすくなるメリットも大きいです。

②考える部門の頭脳優秀なThinker の新人に、Doer のオペレーショナルな生産ラインの仕事、サポート業務を期間限定でさせることにより、会社、部門は全体が協力して価値を創出していることを実感させることができます。Thinker だけでは、仕事はできないことに気づかせることになります。製造業では特に大切でどこでも行われています。

③技術系の部門・職種の違いで上下の差別があるかどうか
欧米は、R&D>エンジニア・ラインスタッフ>>生産ライン
日本はR&D=エンジニア・ラインスタッフ=生産ライン
日本は、部門・機能は平等に見られ、そこのトップ同士が変わることは普通に起きます。
R&Dトップと工場長の交代は良くあります。日本はイーブン、フラットな企業文化です。

④日本のモノづくりの会社が強いのは、他部門、仲間との「すり合わせ」で新しいものを作ることができるからです。これは外国人にはとても説明しにくいですが。そのためには違う分野、部門にも平気で口を出すことができる環境が必要です。そのためには、他
を知らないといけないのです。これは日本人では常識なのですが・・・。

外国人の新人さんたちは、優秀で、フランク、ストレート、オープンなので、疑問を持つとバンバン部門の上司たちに質問を続けていきます。Why Why の連続です。上司は現場トラブルの何故の5回には慣れていても、このような質問は「未知との遭遇です」、説明に窮した彼らの日本人上司は「四の五の言わずに、まずはやってみろ、1000回やってから質問しろ、理屈を言うんじゃない、お前も日本の会社に入ったなら、日本人に慣れ」と外国人にとっては意味不明な説明をして、議論を放棄してしまいます。賢明なみなさんには、その後のことはおわかりですね。この状況はなんとかしないといけません。

それでは、チュース

158.日本企業の海外人材ガラパゴス化 その1 日本本社への不満

最近、会社のグローバル化の波は確実に勢いを増しています。しかもそれは、今までのやり方の延長では対応できないレベルになってきていることをひしひしと感じます。海外における日系企業のプレゼンスは依然高いものです。それは日本製品への信頼、日本人の誠実さ、優しさからであり、それに加えて最近は、アニメ、漫画、ゲームで日本を好きになった人もたくさんいて日本企業の門をたたいてくれます。しかしながらグローバル環境の激変はあっても、日本企業の海外ナショナルスタッフへの対応は旧態然としたもので変わりはあまり見られません。

海外現法には本社の言うことをよく聞く日本人駐在員を派遣し、本社から日本語で指示を出し、それなりの現地スタッフに駐在員から命令していれば良い時代は終わりました。現地で優秀な人が現地から情報を取り対応していかなければ、その会社は衰退していくのは自明の理ですが、しかしながらそれに気づこうとしていない、日本企業、特に日本本社は多いです。現地は気づいていますが、本社の偉い人への配慮から本当のことは言いません。自分たちでだけで対処しようと奮闘しています。そうすれば東京に戻った時に厚遇される伝統がまだ残っているからです。しかしそのやり方も限界に来ているようです。

下記に海外ナショナルスタッフの日本企業への不満を上げてみます。特に優秀な人財からの意見です。これは主に欧米系企業との比較の中ででてきたものです。
それができない日本人駐在員の理由(⇒)も併記します。

1.外国人向けのキャリアプランがない。
⇒日本人向けにもないのに、外国人だけに作れるか。それは日本人への逆差別である。

2.察する文化はわからない。説明責任を果たしていない。
⇒それが、日本文化の美徳であり駐在員はそれができる。それができることが、本音では駐在員の強み、差別化である。

3.意志決定プロセス(本社・現法両方)が不明、どのような経緯で意志決定されるか、よくわからない。
⇒形式的にはあるが、本当は人的ネットワークで決まる。誰に通せば良いかである。これも駐在員の強みである。会議は形式的であり、その前の根回しが大切だが、それは外国人には説明不可能である。

4.何事につけて動きがとにかく、遅い。
⇒日本は集団合議制であり、稟議に時間がかる。また失敗は致命的になるため、マネジメント層もチャレンジな意思決定はしたがらない。役員層は自分の任期期間中は最低限のことしかやりたがらない。これも外国人に理解してもらうのは無理である。

5.下積み期間はなんであるの?大学で高度な専門教育を受けて来たのに、何故、専門と関係のない単純作業や、販売業務をしばらくやらなければならないのか。意味不明である。
⇒これについては、日本人でもきちんと説明できる人は少ない。次回のブログで私の見解を述べてみます。

結局のところ、希望を持って日本企業に入社してきた優秀な外国人も、わからないことに対して十分な説明を受けることもできず、またそう言ったことを質問したり、口にだしてはいけない日本企業の雰囲気、環境に嫌気がさしたり、馴染めないでやめて行く人は相当数います。優秀な人財を獲得するのは相当な労力、コストがかかります。その人たちがすぐに辞めてしまうことは、個々の会社だけでなく、日本全体としての損失は測り知れません。このままですと、問題提起だけのジャーナリスト風になってしまいますので、その対応策はきちんと考えて出そうと思います。しかしながら、その問題は、外国人だけへの問題ではなく、今の若い日本人社員へも共通な問題だということにすぐに気がつきます。日本の会社の風土、仕組みまで考えないといけないことで、ちょっと大がかりです。

それでは、チュース

142.私のニックネームはニックとスマイル講座

英国駐在時、秘書から思いがけないクレームがふたつありました。ひとつめはニックネーム、英国の会社では、普通の名字で呼ぶことは少なく、ファーストネーム、ニックネームで呼び合います。大陸側、特にドイツでは必ずミスター住永でしたから、習慣が違います。ニックネームの理由は、上司と部下で逆転が良く起きるのでその際、スムーズにいくためと聞きましたが、本当のところはわかりません。私はノブユキですから、ニックネームはノブ、Nobuと決めて、名刺やメールアドレスもそれで作りました。ところが秘書がやってきて、それはダメだ、そのニックネームでは呼べない、変えて欲しいと強硬に言ってきます。理由は最初口ごもっていましたが、良く聞くと、ノブはドアノブを意味して、英国では隠語で男性のチ○チ○を意味するのだそうです。英国にはNOBUという、有名な日本食レストランもあるので大丈夫と思っていたのですが、あれは発音が違うからとかなんとか言って、とにかく変えろと言います。じゃあ、伸ばしてノビー、Nobbyならいいだろうと言ったら、それは小さい○○○○で、またも即座に却下、Nから始まるファーストネームはノーマン、ナイジェル、ニックくらいしかなく、それでニックNickになりました。

他に日本では悪い意味はない英語でも、現地では悪い意味があって取り下げたものとして、黄色いライト用の製品を作った時に、レモンライトとして、これは爽やかでいいだろうと思ったら、米国ではレモンは不良品の別名でこれもNGになりました。昔、日本のカルピスをアメリカに輸出した時、カルピスは カウピス COW PISS =牛のおしっこ に聞こえるので発売しても全然売れなかったという話を聞いたことがあります。英語は裏の意味もたくさんあるので、日本人が考えた英語を外国で使う場合は必ず、現地のネイティブに確認することを怠ってはいけません。

ふたつめは、この秘書は私の英語にもいろいろと丁寧にとか、ソフトにとか、婉曲的にとか注文をつけるですが、一番言われたことは、Nick Smile つまり、もっと笑えということです。どうも彼女には私の標準顔は怒っているように見えるらしいです。日本にいる時から、私は、会社で結婚式には向かない顔だけど、葬式には向いていると言われて、よくお葬式に行かされたり、会社関係のお葬式の世話役をさせられることが多かったです。彼女は私に、会社に来たら、口角、つまり口の両端を上げること、顔の筋肉を緩めるようにマッサージすること、アイウエオの母音を大きく口を開けていうこと、を練習しなさいと指示してきます。ロンドンにスマイル講座があるから、そこに行きなさいとも言われました。そんなに私の顔、恐いかなとも思いますが、今でも人と会う時は彼女のアドバイスに従っています。それから秘書(私)と話をする時は、まず雑談から入りなさいとも言われました。私はすぐに本題に入りがちだそうです。たとえば週末帰る時に、秘書の週末の予定を聞いていたら、週明けはその様子をまず聞くてみるとかです。日本人にとってはけっこう面倒くさいですが、慣れると違和感はなくなり、そんなちょっとしたことでコミュニケーションが良くなるならOKと思うようになりました。

それでは、チュース

133.海外駐在員はローカルと本社のブリッジパーソンになれ 

No19で「日本人ビジネスマンは海外と国内でキャラを変えないといけない」と言いました。
これは私の海外経験から感じたことで、現地に入ってローカルスタッフと一緒に仕事をする姿勢と、対東京本社ではふたつの異なるキャラを演じなければならないということでした。私は当時海外赴任した先のローカルスタッフと同じ視線、同じ感覚でそこの海外現法の業績を上げるために必死になっていました。その結果東京本社や他の海外現法と対立することが増え、会社トータルのビジネスとして全体最適ではワークしなくなっていきました。今思えば、私がローカルに染まり過ぎて、日本人としてその海外現法に駐在する意味、目的をおろそかにしてしまっていたのだと反省しています。再度駐在になればその過ちはしないだろうと思いますが、もう手遅れです。ですからこれから海外駐在になる人に伝えたいのは、私の反省からも海外現法と本社をつなぎ、うまく両者をワークさせるブリッジパーソンになって欲しいとういうことです。

これだけグローバル化が進んでくると、すべてのことを本社が決めて、海外現法に指示を出すのは不可能です。両方がそれぞれの役割を分担して、補完しあうことが重要になってきます。海外現地のことは、現地でしかわかりません。そこにどんな顧客がいて、どんなニーズがあり、どのような製品、サービスをどの価格で提供していくかは、現地にしかできません。そのようなことは現地に権限移譲して現地の責任でどんどん拡大していけば良いのです。そのほうが現地スタッフもヤル気になって成果をだしてくれます。いわば外に向かう大きくなる遠心力の働きです。

一方本社は、トップの考え、会社的な方針、ビジョン、戦略がローカルに齟齬なく浸透しているかをチェックする必要があります。またローカルだけでは難しい、ブランドの確立、最先端技術の提供、資金協力、人事交流、人材提供、人材教育を行い、海外現法をサポートしていきます。これは全社最適を図る求心力の働きです。

しかしながら海外への権限移譲が進むとローカルはかってに動きだし、本社への重要事項の報告、たとえば競合の状況、市場・顧客の変化、先端技術の動向などが滞りがちになります。悪くすると知らないうちに本社とローカルの間に見えない壁ができ、そのまま放置すると、巨額の不正経理や法令遵守違反、パワハラ、セクハラによる会社への訴訟などが起きて、会社全体にとって大きなダメージリスクになる可能性があります。これを避けるためにもこれからの海外駐在員は、この遠心力と求心力のバランスを取って、ローカルにとっても、本社にとっても最適なビジネス環境を創出、演出する橋渡しの人間、ブリッジパーソンになってください。これはかなり難しいですが、やりがいのある価値ある仕事です。

これから海外に出て雄飛される若い駐在員のみなさんには、是非そうなって頂きたいのです。その実現のためには、ローカルスタッフとも本社の人間とも、頻度多く面と向かいあいながら、わからないこと、気になること、またローカルの事情、全社の方針等を本音ベースでの会話、対話を通して双方が理解、納得するまで時間をかけて徹底的にしていっていくしかありません。それを面倒臭がってはダメです。これが私からのお願いです。

それでは チュース