ブログ391.で今回の買収で冨士フイルムの野望実現ということ書きました。確かにゼロックスを支配することは長年の古森会長の熱い想いだったと思います。しかしこの買収は富士フイルムにとって、ビジネス上の本当に成功かというと、古森会長の得意満面の顔と「ゲームチェンジだ」との強気の発言とは裏腹に疑問が残ります。経営、戦略で最も大事なのは、企業立地で、時代の流れに乗ることです、漁師がどこに網をかけるかに似ています。ゼロックスの1970年台、1980年台は複写機の他にコンピュータでもアップルや、マイクロソフトよりも先端を行っていました。まさに世界をリードしていた会社です。しかしコンピュータの小型化戦略で敗れ、複写機、事務機に戻らざるを得なくなってから、凋落が始まりました。複写機の市場はデジタル化で縮小、競合も多数でてきました。そこで、2000年に富士ゼロックスの持ち分の50%のうち25%を冨士フイルムに譲渡、そして今回、冨士フイルムにゼロックス本体を売却(50.1%の株式)、支配権を譲りました。ここ数年、ゼロックス本体の業績は悪化し続け、マネジメントは窮地に陥っていました。自分たちのボーナス、給与も保証できなくなってきました。そこで考えたのが、ゼロックスの冨士フイルムへの売却です。これで、ゼロックスマネジメントは豊富な買収資金を手にし、子会社になった好調な冨士ゼロックスからの配当も当面入ります。この売却ビジネスプロセス成功により、ゼロックスマネジメント上層部は、多額なボーナス、桁外れの退職金を手にして辞めていくでしょう。自分たちの面子もたち、実も取る実に見事な戦略の結果です。今回の勝者は彼らだと思います。
このあと起こることは、ゼロックスの優秀な技術者たちの退職です。彼らも十分なボーナスと、退職金を手にします。少し時代遅れでも複写機の技術は残るでしょうが、優秀なエンジニアは去りますので、あらたな開発、進化はできないでしょう。そうなると、子会社になった富士ゼロックスから、大量のエンジニアを本体に派遣、開発を続けなければなりません。これは富士ゼロックスにとっては相当な負担です。冨士ゼロックスは従業員の2割、1万人のリストラも行われますから、当然士気も落ち、優秀なエンジニア、社員も流出します。これは、かなりの危機的な状況です。この中一番たいへんで、苦労するのは、この買収成功の使命を受けて日本からゼロックス本体に送り込まれる、富士フイルムの役員、社員であることは間違いありません。
言う事を聞かない、残ったゼロックスのマネジメント陣をコントロールするのは至難の業です。今までの冨士フイルムにはなかった経験です。しかし古森会長からは、この買収は絶対に失敗は許されないという厳命が派遣される日本人には課せられますから、板挟まってしまいます。まさに試練の日々が続くことが予想されます。
実は、冨士フイルムは今から、30年前に全く同じような買収をしました。これには私も深く関与したので良く知っていますが、印刷関連で当時、最先端の画像処理機器を持った英国のクロスフィールド社の買収です。当時、材料しか持っていなかった冨士フイルムは、同じ材料会社の米国Dupont社と高額を出し合って買収しました。冨士から見たら絶世の美女で、声もかけることもできないためらう相手でした。しかし大喜びで買収してみると、持っている技術は既に時代遅れで、その後印刷業界の主流になったDTPには使えないものでした。社内体制もボロボロ状態、そしてわがままでプライドの高い英国人のマネジメントは、日本人には不可能で、不満を抱いた英国人マネジメントは高額の退職金を手に次、次と辞めていき、技術者も続々やめていきました。その後Dupontの持ち分株式を買い取った冨士は大量のエンジニアを日本から送り込みました。結局は再興することができず、10数年前に持ち出しでマネジメントバイアウトを行い決着をつけました。大きな授業料を支払いました。今回の買収は、その時のことが、デジャブのように思い起こされました。
もちろん、これは私のネガティブな推測で、冨士のマネジメントはそれらは織り込み済みでの決断だったと思います。前回のブログでも書きましたが、ロジカルには正しい判断だったでしょうが、これをプラン通り実行するのは、本当に大変な仕事です。私の冨士フイルムの後輩にあたる誰かが、この重責を負うのでしょうが、覚悟を決めてやるか、できなければ最初から逃げ出したほうがいいでしょう。それほど困難な仕事だと思います。
それでは、チュース!!